風をつかむ-識者の視点・7/日本政策投資銀行・原田文代氏

2021年7月8日 トップニュース

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 大型の建設プロジェクトになり、長期間のメンテナンスが欠かせない洋上風力発電施設。地域経済への波及効果は大きいものの、小さくないリスクが存在し、資金供与や投資を促す金融プレーヤーが重要な役割を担う。政府の官民協議会の委員を務める日本政策投資銀行の原田文代ストラクチャードファイナンス部長(6月14日時点)は「透明性のある魅力的なマーケットの形成が重要」と指摘する。
 --洋上風力を巡るこれまでの取り組みは。
 「日本でもこの産業が興ったときに、金融のアレンジを含めて乗り遅れないよう準備してきた。2014年にオーステッド(デンマーク)が建設した欧州のプロジェクトに投資したのを皮切りに、各国の政策動向やリスクの把握に努めた。メガバンクを含めて日本の金融プレーヤーは経験を積んできたが、洋上風力はまとまった資金がいる。欧州の知見では分からないリスクもある。だからこそ金融プレーヤーが果たす役割と適正な市場の整備が重要になる」
 --リスクや課題をどう見ているか。
 「日本は海象条件が欧州とかなり異なる。工事をいつ、どのくらい行えるかの予見が難しく、経験から計れないリスクが少なくない。洋上風力はサプライチェーン(供給網)の裾野が広く、30年のような期間でメンテナンスが行われ、地域の経済、雇用にとって重要な産業になる。地域のプレーヤーを熟知する地方銀行が参画する意義は大きいが、量とリスクをどれだけ担うかがポイントになる」
 「風況の適地が限られるので、拠点港の規模と場所が重要になる。台風が多く、低風速な時もある日本仕様の風車も求められる。かなりの部分が輸入ではエネルギーのセキュリティーの観点から問題があり、機器の国産化が課題だ。国内のサプライチェーンの育成や技術革新とグローバル調達のバランスをどう取るかが問われる。メンテナンスの産業と雇用の効果は見逃せない。生涯働ける場が地域に創出されるが、今はストックが限られる。人材をどう育成するか検討する必要がある」
 --金融機関や投資家の動向をどう捉えているか。
 「期待や関心はとても大きい。リターンはマーケットが決めることになるが、プレーヤーが限定されないよう、海外の投資家にも魅力的でなければならない。健全でサステナブル、透明性のあるマーケットの組成が期待される。法律や官民協議会が整い、必要な情報が発信されてきている。日本版セントラル方式の検討など透明性の確保に向けた取り組みが進んでいる」
 「ESG(社会的責任投資)から相当なお金が集まるだろうが、市場の形成はまだまだこれから。日本は効果的なシステムや制度を導入できる後発のメリットがあるが、リスクを織り込んだファイナンスやリターンになっているかは慎重に見極めねばならない。発電コストは、ストックや人材の充足具合を考慮する必要がある。政府の導入目標の達成にみんなで頑張ることと、事業者として冷静な目を持つことの両方が大切だ」。
 (現執行役員〈GRIT担当〉兼経営企画部サステナビリティ経営室長)