風をつかむ-市場展望・2/未知なる市場でリスク分散

2021年7月27日 トップニュース

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 洋上風力発電事業の大型案件の投資額は数千億円規模に達する。先行する欧州市場ではリスク分散の観点から、保険会社だけでなく再保険会社が加わるのが一般的だ。建設工事では作業時に多くのリスクが伴い、専用の保険への加入が必須となる。複数の海外案件に参画する日系企業幹部は「保険を掛ける際、欧州の機関は安全対策を厳しく評価し、工事のやり方を変える必要も出てくる」と話す。
 保険加入に当たり、事業者は保険・再保険会社が指定する第三者機関のマリンワランティサーベイ(MWS)の実施者と契約し、MWSによる工事の審査・検査を通じて作業の安全性や確実性を承認することが求められる。
 港湾空港総合技術センター(SCOPE)は、洋上風力関連の技術基準類や基地港湾関係の整備支援といった公的業務のほか、海域の占用計画の確認支援などを実施。さらに活動の幅を広げようと、事業者支援のMWSを展開している。
 2018年にMWSの老舗企業「サーベイ・アソシエーション(SAC)」(デンマーク)と業務提携を交わした。SCOPE審議役の松田英光洋上風力部長は「施工や維持管理の基準類作成に携わり、日本のやり方を熟知しているわれわれがMWSを担う意義は大きい」と強調する。日本であまりなじみのないMWSだが、今後本格化する国内市場で事業を円滑に進める上でMWSの存在感はさらに高まると見る。
 施工計画に関する確認・審査や現地立ち会い、作業承諾書(COA)発行など、MWS担当者は経験がより重視されるため、提携先への職員派遣など、OJT中心にスキルアップを進める。SACとの協業により「海外の再保険会社からの信頼も得られる」(松田氏)とし、ワンチームで協力関係をさらに深めていく方針だ。
 MWSの理解促進を目的に実施要領書(20年12月版)も作成した。松田氏は「欧州のやり方をどこまで取り入れていいのか、迷う事業者も多いと思われる。MWSという新しい業務をSCOPEが確実に行うことで、日本の洋上風力の発展を後押ししたい」と意気込む。
 後発の日本市場では、先行市場で磨き上げた技術・仕組みを活用できるメリットと合わせ、初めて行うリスクを適切に織り込むことが重要だ。金融関係者も「リスクや注力する部分も案件やプレーヤーごとに異なり、欧州式を取り入れていいのかどうかをきちんと見定める必要がある」と指摘する。国内の施工関係者も「海外企業の経験・技術を、日本側のやり方に完全融合させることはそう簡単ではない」と明かす。
 海外案件に参画して経験値とスキルを高める日系企業・機関の動きが目立つ。業務・資本提携まで踏み込むケースもある。国内の事業関係者は「第1、第2ラウンドまでは実績のある海外企業としっかり組んで、謙虚に学ばせてもらう」と話す一方、「企業文化はそれぞれ異なり、他国の企業ではなおさら。パートナーとの相性の見極めも重要だ」と持論を展開する。