風をつかむ-市場展望・3/ビジネス成り立たせ持続可能な産業へ

2021年7月28日 トップニュース

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 発電事業者は公募・入札で選定される。入札制度の導入は競争を促し、適正な市場環境を形成するのが狙い。JERAの矢島聡執行役員は「競争することで知恵を絞るし、リスクも取る」と強調。電気事業者の立場から「もうけ過ぎてはいけないが、もうけなくてはいけない。持続可能な事業にしていかなければいけない」と過度な価格競争をけん制する。
 事業者は応札に向け、長い年月と膨大な資金を投じて風況や海底地盤などの調査を行う。それには地元の理解や協力も欠かせない。だが各事業者がそれぞれに調査するため地元の負担は大きい。今後の公募・入札に向け、矢島氏は「事業者だけでなく地元の負担を減らすためにも『セントラル方式』(政府主導の案件形成スキーム)に近い形が望ましい」とみる。
 入札内容の評価結果にも注目が集まっている。丸紅洋上風力開発の真鍋寿史社長は「陸上と洋上では安全の危険度が比べものにならない」と指摘。安全に関する経費を競争に付すことに疑問を投げ掛ける。
 沖合に巨大風車を建造するには安全管理はもちろん、船をベースにした施工計画が重要となる。だが建設に使うSEP(自己昇降式作業台)船の台数には限りがある。造船には大型投資が必要で今後、台数が大きく増える見通しはない。矢島氏は「船がなく新規に建設できない期間がある。それが当たり前に起きるだろう」との見方を示す。
 事業者は建設時だけでなく、運用時にも船の確保が求められる。真鍋氏は「メンテナンス用のアクセス船やブレード交換できる大きな船も必要になる」とこれからの課題を挙げる。
 持続可能な産業を創り上げるには初期投資が必要となる。資源エネルギー庁の幹部は「20年、30年先に再エネ中心のエネルギー供給体制を築くため、多くの企業に理解いただき投資してほしい」と呼び掛ける。
 洋上風力は公共性の高いエネルギーインフラながらも、発電事業者はビジネスとして成り立たせなくてはいけない。プロジェクトの知見とストックが豊富な欧州と比べ、日本は海象条件をはじめ想定できないリスクが多い。政府が試算した発電コストは付帯する条件が多く、新設、メンテナンスのコストとも割高になる懸念がある。収益性やリスクから視線はそらせず、日本政策投資銀行の原田文代執行役員は「冷静な目も持たないと」と指摘する。
 洋上風力関連の市場には、ESG(環境・社会・企業統治)投資の観点から豊富な資金が流入する。プレーヤーが多ければ多いほど市場は活性化され、キャッシュフローとともにイノベーションが創出される公算が大きくなる。
 プロジェクトのマネジメントやリスク管理を担う「建設会社のクオリティーがすごく大事」(原田氏)と関係機関からの期待は大きい。技術開発や生産体制の整備を進めているゼネコンやマリコンは、洋上風力のビジネスモデルを構築する重要な役割を担うことになる。