風をつかむ-市場展望・5/国内外で協業・提携広げる

2021年8月3日 トップニュース

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 危険を伴う海洋工事でまず安全性を確保しながら、より経済的な基礎構造などを考える--。洋上風力発電事業のEPCI(設計・調達・施工・据え付け)などで事業参画を狙う建設会社の幹部は、未経験の工事をいかに安全かつ円滑に進めるかを重点課題に掲げる。建設各社は国内外の多分野の企業らと協業・提携関係を築きながら、施工力や技術力の補完を進めている。
 秋田県の港湾区域の洋上風力発電事業で基礎工事を担う鹿島。関係者は「初めての経験で苦労すると思うが、今後に向けてプラスになるよう先手先手で計画していく」と慎重な対応を心掛ける。
 気象・海象や地盤など自然環境は異なるものの、先行する欧州市場での経験値を取り込むことが、日本国内に洋上風力を早期に根付かせるには欠かせない。発電設備などサプライチェーン(供給網)全体で海外企業と連携する動きが活発化している。
 欧州で洋上風車の据え付け実績が豊富なベルギーのデメオフショアホールディングスとの協働体制を深める五洋建設。技術交流にとどまらず、SEP(自己昇降式作業台)船の確保・運用などでも協力関係を強化し、国内市場での競争力を高める。
 清水建設もノルウェーの洋上風力建設会社、フレッド・オルセン・オーシャンと協力体制を構築。SEP船の運航訓練や洋上風車据え付け工事で技術支援を受ける。スペインの風力発電設備メーカーであるシーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーと連携する大林組は、秋田県沖で取り組む洋上風力案件で、関連設備の整備や維持管理のほか、地域貢献の分野も含めて協力関係を強める。
 調査・設計から施工、維持管理まで、事業期間が長期にわたる洋上風力の事業者には、地元企業の参画など、各フェーズで地域経済の活性化につながる施策が重視される。建設各社にも事業者目線をより意識した計画が求められる。
 事業化が先行する着床式では、国内市場に適応した基礎工法など関連技術の高度化に向け、官民で研究開発が進む。潜在需要が大きな浮体式の技術開発は世界で今後本格化するため、日本の建設各社も経営資源を積極投入している。
 長崎県五島市沖で浮体式の実用・事業化に長年取り組む戸田建設。浮体部の下部がコンクリート、上部を鋼製とした世界初のハイブリッドスパー型の発電施設を設置し、運転・試験・保守の経験を積み重ねてきた。6月には同市沖の一般海域で国内初の事業者に、同社代表のグループが選ばれた。同社の佐藤郁浮体式洋上風力発電事業部長は「今後も実績と技術力を生かし、浮体式の事業者として参画していく」と意欲を示す。
 コンクリート製浮体式基礎の開発と日本市場の開拓に当たり、大成建設は仏イデオルと提携し、技術力の強化に力を注ぐ。建設業をはじめ、洋上風力分野のものづくり産業に関わる関係者らは、着床式の遅れを取り戻そうと、浮体式での差別化技術の研究開発にまい進している。