風をつかむ/市場展望・6/SEP船確保が競争力の鍵に

2021年8月5日 トップニュース

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 建設各社が技術力を競う舞台として注目している洋上風力発電事業。施工者としての競争力を高めるため各社は技術力を磨いたり、SEP(自己昇降式作業台)船を確保したりなど準備を急ぐ。
 資材を効率的に運搬できるSEP船は建設コストを削減し、競争力を高める上で欠かせない。清水建設は500億円を投じて世界最大規模のSEP船を建造する。エンジニアリング事業担当の山地徹副社長は洋上風力発電施設の受注で「トップシェアを取る」と強い意欲を見せる。
 五洋建設と鹿島、寄神建設は共同で1600トンつりの全旋回式クレーンを搭載したSEP船を建造している。大林組と東亜建設工業は、共同で建造するSEP船のクレーン能力を1000トンつりから1250トンつりまで引き上げ、風車の大型化に対応する。新造船は22、23年に完成を迎える見通し。800トンつりSEP船が稼働済みの五洋建設は2隻目となる。
 東洋建設は低コストで効率的に施設基礎を建設する工法を開発している。若築建設も多機能作業船の建造を見据える。多くの企業が事業参入を虎視眈々(たんたん)と狙っている。
 建設コストを抑制する上で最も避けたいのが工事の長期化だ。発電施設の建設は工事が長引くほどコストがかさみ、事業収支に影響を与える。施工者は一日でも早く工事を進めたいと考えるが、「行政手続きの煩雑さなどが工事を円滑に進める上でネックになっている」との声も聞こえる。
 関係者からは「しゃくし定規に手続きを踏むためスピード感がない」と行政の対応に不満が漏れる。「複数のプロジェクトを重ねコストや工期にフィードバックするのが本来の姿」「技術的な難易度に関係なく海域が指定されている。順調にコストが下がっていくのか疑問」。洋上風力発電事業の先行きには課題が見え隠れする。
 工事が長期化する要因には海象条件の厳しさもある。日本海などでは秋から冬にかけて風が強くなる。施工の難易度が増し「冬になると手が付けられない」(建設会社関係者)ことも。手続きなどの都合で海象条件が安定した季節に施工できなければ、工期が伸びコストアップにつながる。
 「日本の基地港は欧州と比較して非常に規模が小さい」という指摘もある。大型SEP船などを使った作業の効率を高めるには基地港など周辺環境の整備が欠かせない。
 万全の構えで工事に臨んだとしても、洋上という特殊な条件での施工はトラブルが起きる可能性もある。ある企業の幹部は「トラブルの経験もフィードバックして技術開発につなげる。台風などの厳しい条件は海外展開を目指す上で逆に有利になる」と前向きに捉える。
 大林組や戸田建設などの建設各社が事業者として参入する動きも出ている。新潟北部沖で洋上風力発電プロジェクトを計画する大成建設は「施工だけでなく事業での収益獲得も期待している」と先を見通す。