風をつかむ-市場展望・7/不退転の覚悟で地域と事業推進

2021年8月6日 トップニュース

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 構成機器や部品数が数万点に上る洋上風力発電設備。風車を製造する日本メーカーはいないが、潜在的なサプライヤーとされる企業は数多い。国内調達比率を2040年までに60%とする目標達成に向け、設備投資など産業界の取り組みも今後本格化する見通しだ。
 日本風力発電協会の加藤仁代表理事は「洋上風力は先進国で完結するものづくり産業といえる。先行する欧州の労働賃金や技術レベルなどを見比べても日本は遜色なく、造船などむしろ進んでいる分野もあり、産業として十分に成り立つ」と語気を強める。サプライチェーン(供給網)の裾野が広く、基地港周辺への関連産業の集積など、各地で波及効果に期待が高まる。
 洋上風力を地域の振興・発展につなげようと、官民一体で取り組む動きも活発化している。発電事業者の選定作業が進む促進区域の「千葉県銚子市沖」では、市と漁協、商工会が出資する国内初の半官半民の洋上風力メンテナンス会社が昨年9月に発足した。越川信一市長は「(事業の恩恵を)ただ待つのではなく、雇用や経済効果の最大化には地元側も知恵を絞り、工夫する必要がある」と訴える。
 メンテナンスに必要な資材供給や運搬などで地元企業が関与する構想を描く。事業者には地域経済を循環させるパートナーとしての期待も大きい。建設中も含めて観光資源に活用したり、蓄電池技術と合わせた災害時の非常用電源を確保したりするなど、導入効果を広げたい考えだ。
 漁業との共生も課題の一つ。「水揚げ日本一の港近くで事業が実現すれば、全国的なモデルになる」と越川市長。洋上風力と漁業が対立関係にないことを示すことで、他地域の案件形成も円滑に進むとみる。
 台風の被災リスクが低く、風況も安定している東北を中心とした日本海側では、洋上風力発電の誘致に向けて地元の鼻息も荒い。秋田県沖では複数箇所で事業化が進み、県内では洋上風力の運営・保守専門会社や、沖合への作業員の輸送などを担う関連会社の設立が相次ぐ。地元の建設会社も積極的に参画している。
 県は企業同士のマッチングのほか、人材育成にも力を注ぐ。洋上風力など再生可能エネルギーの普及拡大を見据え、2年前から工業系高校を対象に電気主任技術者の資格取得を後押しする出前講座を展開。昨年、県立大学では県職員が講師を務め、再エネ関連の講義を行った。
 佐竹敬久知事は「洋上風力の成功には地元との長期的な共生が不可欠」と強調する。人口減少と高齢化が進行する中、地域活性化の起爆剤として洋上風力が持つ可能性に熱視線を送る。
 洋上風力産業の創出に向け、人材や企業の育成から街づくりまで一貫した取り組みが動きだす。官民の中長期戦略に基づき、建設産業も含めて関係者には不退転の覚悟を持って事業を進めることが求められる。
 =おわり
 (編集部・洋上風力発電取材班=阪本繁紀、木全真平、沖田茉央、熊谷侑子、片山洋志、大西秀明、溝口和幸、山口裕照、牧野洋久、遠藤奨吾)