市況変動/デベロッパー各社、資材価格高騰で対応模索

2022年5月18日 トップニュース

文字サイズ

 建設資材の価格高騰を受け、デベロッパー各社が神経をとがらせている。適正な価格で高品質な物件を提供してきた各社にとって、セメントや鋼材価格の急騰は経営の根幹を揺るがしかねない。一部企業からは「マンションの販売価格に影響するのでは」という不安の声が漏れ聞こえる。同時に協調関係にある建設会社へのしわ寄せも懸念され、徹底したコスト管理も求められる。大手総合デベロッパーや物流デベロッパーなど複数社の対応状況を追った。

 建設資材の価格動向を数値化している経済調査会の「建設資材価格指数」によると、建築部門の平均値は2021年度時点で137・2。15年度に比べて37・2ポイント上昇し、過去8年間で最高水準に達した。あるゼネコンからは「今期(22年度)も資材価格は上昇し、ウクライナ危機でさらに拍車が掛かる可能性がある。経営努力ではカバーできない状況だ」と悲鳴にも似た声が上がっている。
 資材価格が軒並み高騰する中、大手デベロッパーの幹部は「今期分の工事は契約済みで、直ちに影響が出ることはない」としつつ、「世界的な傾向を見ても、今後の建設費が上昇していくことは間違いない」と断言する。
 さらに資材価格の高騰に加え、工期遅延に伴う労務費の上昇も見過ごせない問題だ。物流デベロッパーの担当者は「調達期間の延伸や作業所での完全週休2日制の導入によって、工事費の上昇に拍車を掛けるのでは」と不安を募らせる。
 公共発注機関などで適用を検討している「スライド条項」など具体的な取り組みに対しては、複数企業が「検討課題として認識している」や「各事業ごとにゼネコンと個別に協議していく」と回答。ただ一部企業は「(スライド条項の適用は)現時点で検討していない」とするなど、各社によって対応方針が分かれている。
 工事費の上昇を抑制しながら、いかに品質を落とさないかがデベロッパー各社の最重要課題と言えよう。あるデベロッパーは「価格の安い代替品の採用や工期短縮による人件費削減などが必要になる」と説く。物流関連のデベロッパーも「ゼネコンに費用を抑える工法の提案や早期の資材確保をお願いしている」と先手を打った対応を講じる考え。だが工事費の上昇は各社の自助努力だけでは解決できない。各社の経営トップは「増加したコストをどこで回収するのか」と吐露。難しいかじ取りが迫られている。
 こうした状況下、工事費の高騰分を販売価格や賃料に上乗せする動きも出始めている。特に分譲マンションは価格上昇の影響をもろに受ける可能性がある。
 不動産経済研究所が発表した首都圏の新築マンションの平均価格は、3月時点で1戸当たり6518万円。土地の価格上昇に起因し、近年の販売価格はバブル期を超える過去最高の水準で推移している。都心分譲マンションの人気が依然根強い中、不動産業界の関係者は「現在の価格相場を上回ると、買い手の減少につながるのではないか」と不安を口にする。あるデベロッパー幹部も「情勢次第では販売価格に影響する」と指摘する。
 価格を維持するためにも高付加価値化や差別化がますます重要となる。駅に近い物件やタワーマンションなど顧客が付加価値を認識しやすい案件をターゲットに設定するなど、他社との差別化を虎視眈々(たんたん)と狙っている。
 建設資材の価格高騰は国会でも頻繁に取り上げられている。11日の参院本会議で国の対応を問われた斉藤鉄夫国土交通相は「建設資材で価格の上昇や一部納品の遅延などが生じており、価格転嫁や工期の見直しが適切になされることが重要」と強調。原油価格・物価高騰への対応を目的に決定した政府の「総合緊急対策」を踏まえ、デベロッパーを含む官民発注者に対して適正な予定価格の設定やスライド条項の適切な適用を働き掛けている。
 国交省は民間発注者団体に対して、民間の契約約款で示されている請負代金や工事・工期の変更についての規定を伝達している。不動産協会も「政府からの通知は会員各社に周知しており、引き続き協会としても資材価格高騰などの動向をしっかりと注視していく」とコメントしている。
 工事価格の抑制に向けて、各社がゼネコンとの連携強化を訴える。あるデベロッパーは「受発注者双方で協力し、高い商品性を維持しつつ、資材や設備の選別を行っていきたい」と覚悟を示す。別の会社も「コスト削減をゼネコンに一任せず、施主の立場からも方策を検討していきたい」と語る。
 来年以降、資材価格の高騰が「ボディーブローのように効いてくる」と先を読むデベロッパーもある中、ゼネコンとの契約調整や工事費縮減に向けた取り組みは一段と熱を帯びそうだ。