市況変動-識者に聞く/経済産業省製造産業局長・藤木俊光氏

2022年6月29日 トップニュース

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 --資機材の価格・需給状況をどう見る。
 「製造業で作り、建設産業に納める資材・素材の価格が相当上がっている。鋼材は1年前に比べ2~3割上昇したものがあり、セメントやガラスの価格も例外なく上昇している。原材料価格とエネルギー価格の高騰が大きく響いている」
 「今後は、金属系など市場で過剰反応していた一部の資材価格が少し頭を下げ、高止まりの傾向になるだろう。エネルギー価格はもともと需要に対する供給が不足していた状況で、ロシアへの経済制裁の影響などがあった。エネルギー価格も今後ある程度まで落ち着くかもしれないが、元の水準には戻らないだろう。むしろ高止まりの傾向を覚悟しなければならない」
 --過去の資材・素材価格高騰との違いは。
 「直近で鋼材価格が現在と同水準だったのはリーマンショック直前の2008年だ。中国をはじめとして、北京オリンピック関連の施設整備などで世界的に盛り上がった鋼材需要に引っ張られる形で価格が上昇した」
 「今回の原材料とエネルギーの価格の上昇に伴う、製品価格の高騰とは状況が異なる。残念ながらロシアによるウクライナ侵攻は長期化する様相を示している。原材料は鉱山や油田などの開発動向にも左右されるため、より構造的な問題で解消にも時間がかかるのではないか」
 --価格高騰にあえぐ企業への支援の方針は。
 「いくつかフェーズがある。ロシア炭からの切り替えなど緊急の対応を迫られるものは政府として可能な限りサポートする。単に補助金を出すだけでなく、同国以外の供給国への働き掛け、物流が課題であれば物流関係者とのマッチングなど供給のラインをつなぐための支援を徹底する」
 「中長期では価格転嫁の実現が重要だ。これまでも特に元下関係の価格転嫁に取り組んできたが、今回の価格高騰対策ではもう一段力を入れる。商慣行や商習慣の見直しを政府一丸となって働き掛けていく」
 --価格転嫁の促進に必要なことは。
 「建設産業では、国土交通省が建設業者の方にも『しっかり転嫁を頑張りましょう』という話をしてくれている。ただ公共工事で整備されている物価スライド条項が、民間契約の工事では適用されていない場合が多く、発注者の理解が必要になる。長年の取引慣行を見直し、契約の在り方を長期的な視野で議論するべきだ」
 「上がった価格をサプライチェーン(供給網)の上流部門でのみ込んだ結果、国内でセメントを製造できなくなったり鋼材を供給できなくなったりする事態を最も避けないといけない。どこかにしわ寄せがいく仕組みではなく、日本のサプライチェーンを守るために歩み寄る意識を、この機会にしっかり持つことが大切になる」。