JAPIC提言プロジェクト・3/外濠(市ケ谷~飯田橋地区再生)

2022年7月6日 トップニュース

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 ◇都心水辺空間をリノベーション
 皇居周辺の「外濠」の一角を形成する市ケ谷・飯田橋地域。四谷にある迎賓館赤坂離宮から続く水と緑のネットワークは、東京を象徴する美しい街並みの一つになっている。JR中央線・総武線に乗車してこの地域を通るとき、緑あふれる水辺空間に目を奪われた人は多いだろう。
 しかし実際に街を歩いてみると、課題がはっきり見えてくる。濠(ごう)を挟んで皇居に近い千代田区九段側と比べ、新宿区側は緑が圧倒的に少ない。交通量の多い幹線道路の都道405号「外堀通り」が新宿区側の街区と水辺空間のつながりを遮断している。また出水時の濠には合流式下水道から下水が流入。このため水質の悪化を招いている。
 こうした課題を解決し自然豊かな地域のポテンシャルをさらに引き出そうという取り組みが、日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)の国土・未来プロジェクト研究会(藤本貴也委員長)の提言「国土造りプロジェクト構想3」。市ケ谷・飯田橋地域の再生プロジェクトだ。
 最初に外堀通りの四ツ谷駅付近~飯田橋駅付近間の延長約2キロを地下化する。続いて外濠の地下に現在の貯水容量を確保できる貯留施設(最大約22万立方メートル)を新設。貯留施設の上部に人工水面を設ける。さらに外堀通り濠側にある歩道ののり面傾斜を緩やかにし、斜面と人工水面を一体化する。トンネル上部には歩行者や自転車の利用を優先するプロムナードを整備し、最終的には外堀通り沿いの建物をセットバックするという流れ。
 一連の工事にかかる総事業費は約1000億円と試算する。内訳は外堀通り地下トンネルが約650億円、外濠地下貯留槽が約300億円、トンネル上部道路およびプロムナード整備が約30億円、水辺空間整備が約20億円。総工期は7年程度を見込む。
 建設コンサルタンツ協会(建コン協)の会員有志で設立したインフラストラクチャー研究所によると、これらの取り組みで外堀通り沿道建物の床面積価値は上昇する見通し。不動産関係で200億~300億円程度の経済効果を予測する。
 プロジェクトの検討を先導した吉川正嗣チームリーダー(建設技術研究所)は、事業の意義を「外濠地区で都心に残る貴重な水と緑のオープンスペースを生かすリノベーション計画」と訴える。事業化の課題にも言及し「この地区は国史跡のため歴史遺産の保存を念頭に計画を調整し、文化財関係の有識者の理解や助言を得たい」と指摘する。
 事業手法と資金調達に関しては「適切な民間参加型スキームの構築が必要。水辺や沿道環境の高質化による周辺の不動産価値向上を資金調達の足掛かりにしたい」との見解を示している。