JAPIC提言プロジェクト・5/由比地区の交通網強靱化

2022年7月8日 トップニュース

文字サイズ

 ◇国道1号・鉄道貨物の迂回ルートを
 国道1号と東名高速道路、JR東海道本線が海沿いで並走している静岡市清水区の由比地区は、日本を代表する交通の要所である。薩田峠から見える富士山や駿河湾の景色は、歌川広重の浮世絵「東海道五十三次・由比」にも残されるほどの絶景。富士山と海、高速道路、鉄道を一望に収められる撮影スポットとしても人気を集め、多くの写真愛好家や観光客が訪れている。
 国道1号や東名高速は道路法の重要物流道路に指定されている。社会資本整備審議会(社整審、国土交通相の諮問機関)道路分科会が2020年8月に公表した資料では、由比地区を通る貨物列車は1日当たり90本前後で、全国上位の運行本数となっている。道路も鉄道も日本の物流を支える大動脈だ。
 そんな由比地区の弱点が自然災害。国交省中部地方整備局静岡国道事務所によると、14年以降は台風や高潮、落石など自然災害による道路や鉄道の通行止めがほぼ毎年発生している。近年は越波による被害が、山側に位置する上り車線側にも広がっているという。日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)の試算によると、南海トラフ地震で同地区の国道1号や東名高速が通行止めになった場合、月当たりの社会損失額は150億円程度を見込む。
 JAPIC国土・未来プロジェクト研究会(藤本貴也委員長)は「国土造りプロジェクト構想5」として由比地区の交通網強靱化を提言した。具体策の一つが迂回(うかい)ルートの確保になる。
 国道1号の場合、東名高速や東海道本線と交差しており単独で迂回ルートを確保するのは難しい。そのため海沿いを通る東名高速を山側に迂回。津波などの影響で国道1号が通行止めになった際、東名高速の迂回ルートを無料通行させる案を提案した。迂回ルートの延長は8キロを想定。うち6キロをトンネルで整備する。迂回ルートの両端には国道1号から乗り入れられるスマートICを1カ所ずつ設ける。事業費は1500億円と試算する。
 東海道本線貨物輸送路の迂回ルートも提案した。現在の東海道新幹線よりも山側に整備。延長は14キロで、大部分の12キロがトンネルになる。事業費は3000億円と検討している。
 いずれも事業期間は15年程度を見込む。最初の5年は環境影響評価(環境アセス)を含む調査設計に取り組む。8年目ごろにトンネルの準備工事に着手。段階的に本体工事に移行していくという流れだ。
 同プロジェクト構想の松本伸チームリーダー(大林組)は「国家の大動脈が海沿いの狭い空間に集中している。南海トラフ地震が起きれば社会的損失は甚大。国家的な課題であることを訴えたい」と強調。「(関係機関には)本プロジェクトをトリガーとして、地域活性化につながる産業振興や津波退避対策などにより活発な議論を期待したい」と訴える。