JAPIC提言プロジェクト・6/中川運河再生構想

2022年7月11日 トップニュース

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 ◇名古屋都心の南北新機軸形成へ
 名古屋港と都心の名古屋駅を結ぶ広大な水辺空間の「中川運河」は1932年に全線供用され、名古屋の経済や産業の発展を支えてきた。水運物流の幹線機能に加え、市中心部の排水も受け持っている。
 名古屋市によると、64年には水運利用のピークを迎え年間取扱貨物量が約400万トンに達した。その後は貨物輸送の手段がトラックに変化していったことで水運は衰退。現在は1日数隻程度の船が往来するにとどまる。
 名古屋駅周囲にオフィスビルが立ち並ぶように、名古屋市街地は親水空間が限られている。大都市圏に接する中川運河は水辺空間としてのポテンシャルを生かし切れていないのが実情だ。そのため地元経済界は中川運河の再生に前向きな姿勢を見せてきた。2009年1月に名古屋商工会議所、12年10月には名古屋市と名古屋港管理組合が共同で再生に向けた提案を行っている。
 日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)国土・未来プロジェクト研究会(藤本貴也委員長)も「国土造りプロジェクト構想6」として提言したのが中川運河の再生を提言。地元経済界の意向も考慮した形で▽沿岸全域のプロムナード整備による水と緑の回廊空間形成▽運河沿岸施設のリノベーションを柱とする新旧融合の職住遊環境整備▽水上交通や鉄道を基軸とする交通ネットワークの形成-の三つがポイントだ。
 提言の実現に向けて、都市計画の観点から官公庁主体で中川運河再生事業に参入しやすい環境づくりを求める。国家戦略特区制度の活用や用途地域変更を例示。ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)や、ライフ・サイクル・カーボン・ハウス(LCCH)の整備優遇策が有効としている。特区内でのPPP/PFIも促進する。特定目的会社(SPC)の設立を念頭に、官による水辺拠点の整備から周辺地区の土地利用開放といった流れを描いている。
 臨港地区整備では、規制緩和と税制優遇によるハード整備支援の在り方にも言及した。例えば同地区内の土地をグリーンベルトにする整備には、容積率の割り増しや用途緩和といったボーナスを付与する。既存施設の資材活用や壁面緑化には財政支援を講じる。
 船着き場や1階部分の防潮扉など水辺空間ならではの民間施設は、公共投資に値するものとみなし固定資産税を減免。文化や芸術の拠点としての価値向上もにらみ、若手芸術家に倉庫の提供を支援するような考え方も示した。
 松田寛志チームリーダー(日本工営)は「中川運河の再生は名古屋に南北の新機軸を形成し、魅力を高める起爆剤になり得る」と強調。実現に向けて「行政や関係者、地域住民らと連携して取り組んでいきたい」と意気込む。