JAPIC提言プロジェクト・9/瀬戸内クルーズネットワーク構想

2022年7月15日 トップニュース

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 ◇観光客と住民が共生する港まちに
 波静かで穏やかな海や温暖な気候風土、個性ある大小さまざまな島々が連なる瀬戸内地域。日本の地中海とも例えられ、青い海と美しい島々の町並みが続くなど、多くの共通性を持っている。
 日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)国土・未来プロジェクト研究会(藤本貴也委員長)は、瀬戸内地域について観光振興に必要な「気候」「自然」「食事」「文化」の4大要素が充実していると分析。世界中から観光客が訪れる欧米のリゾート地のような観光ポテンシャルがあるとみる。
 観光庁の2019年度「旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究」の結果によると、日本の観光関連業が国内総生産(GDP)に占める割合は2%にとどまる。同研究会は、瀬戸内地域の観光ポテンシャルを引き出すような観光振興策を展開すれば、GDP比10%の成長を期待できると試算。GDP2・5兆円の増加、35万人の雇用創出を見込む。
 瀬戸内地域の魅力の一つである多くの島。観光客を増やすには、点在する島々へのアクセス機能を高めることが欠かせない。そこで同研究会は「国土造りプロジェクト構想9」として、「瀬戸内クルーズネットワーク構想」を提言した。
 越智修チームリーダー(五洋建設)は「瀬戸内の高い観光ポテンシャルを生かすには小型船クルーズが鍵になる」と指摘する。定期航路では多くの島を巡るのが難しい。既存の小型船舶を活用した、いわゆる“カジュアルクルーズ”の実現を呼び掛ける。
 イメージするのが欧州を代表する世界遺産のライン川やドナウ川のリバークルーズや、ベトナムにある世界遺産ハロン湾のクルーズ。いずれも世界を代表する小型船クルーズとして知られる。越智氏は「小型船で島々を巡る文化を醸成し、港の改良や街の整備などハード、ソフトを組み合わせることで地域振興に結び付ける」と力を込める。
 小型船クルーズとセットで提言したのが、島の玄関口となる港のにぎわい創出や魅力向上を図る取り組みだ。観光客と住民の共生をテーマに、小型船が寄航できるようにするための簡易な護岸施設を整備。島民と観光客の双方が利用する古民家を改修したカフェや海鮮市場のような店舗、海を眺めながら休憩できる公園などを設けるのが望ましいと考える。
 港まちづくりの財源にも触れ、クルーズ船の寄港に伴う収入を充てる方向で検討。ソフト面では運営に対する人材支援、情報提供などが受けられる国土交通省の「みなとオアシス」認定制度を例示した。
 越智氏は「瀬戸内ならではの統一的な景観を創造することも大切」と指摘。クルーズの目線を重視した景観形成基準の策定も提言している。