JAPIC提言プロジェクト・12/気候変動の豪雨災害対策

2022年7月22日 トップニュース

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 ◇産学官民の総力戦で実行を
 気候変動の影響とみられる豪雨災害が世界各地で頻発している。国土交通省の統計資料で世界の自然災害の発生件数を見ると、2010年代後半に死者が出た洪水や土砂災害などの水害は年平均300~400件程度で推移。1980~90年代の同100~200件程度に比べ倍増した。
 国内も同様の傾向にある。15年9月の関東・東北豪雨や17年7月の九州北部豪雨、18年7月豪雨(西日本豪雨)、19年10月の台風19号(令和元年東日本台風)、20年7月豪雨…。昨年は8月に西日本から東日本までの広い範囲にわたり記録的な大雨が降り続き、各地に甚大な被害をもたらした。国土交通省は治水対策を抜本的に強化するため、流域全体のあらゆる関係者が協働する「流域治水」を新たな基本方針に据えハード・ソフトさまざまな施策を展開している。
 国交省によると、気温が2~4度上昇すると洪水発生頻度も約2~4倍高まる可能性があるという。近年は新型コロナウイルス感染症も流行。豪雨と感染症の「複合災害」リスクも増しており、社会経済の持続的発展を阻害しかねない脅威となっている。
 そこで日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)国土・未来プロジェクト研究会(藤本貴也委員長)が「国土造りプロジェクト構想12」として提言したのが、治水対策の「パラダイムシフト」。従来の認識や価値観にとらわれない取り組みを打ち出した。
 ハード対策では、近年の大雨で洪水ピーク流量をカットしたダムの有効性をあらためて強調。行政機関が事業化を見送ったり先送りしたりしているダムや遊水池、放水路の再検討を求めた。洪水ピークカットを前提に流域全体で水をためる必要があるとして、ため池や水田、公園、耕作放棄地などを活用した都市内貯留施設の整備も列挙。相乗効果を追求すべきとして、これらの施設整備を後押しする予算確保や財政・税制支援の充実を求めた。
 流域に広がる海抜ゼロメートル地帯では、施設能力を上回る洪水が発生しても決壊を防ぎやすくなる高規格堤防の機能に着目。整備を加速するため▽PPPによる宅地開発・再開発との共同事業▽堤防地下空間を活用した道路や貯留槽の整備▽堤防を活用した大規模避難空間の確保▽河川敷地民間利用の用途緩和-などを例示した。
 ソフト対策は「治水版DX」の構築を提言。洪水の浸水想定が立体的な映像によって誰もが一目で理解できるようなハザードマップを作り、国や自治体、民間事業者、住民が避難や耐水対策などで連携することを呼び掛けた。
 検討を先導した関克己ワーキング長(河川財団)は「水害リスクをわが事と知り共有し、そのリスクに応じた建物や高台の街を造る。さまざまな手段で洪水をためる方策など、産学官民の総力戦で実行すべきだ」と力を込める。=おわり
 (編集部・片山洋志)