出張先の青森県内のホテルで揺れを感じた大林組東北支店土木工事部長の森田正は、テレビなどで状況を確認後、JR東日本の担当者に「何かあればすぐに動く」とメールで伝えた。映像などで刻々と伝えられる被災状況から、ただごとではないと感じた。翌日すぐに盛岡まで新幹線で移動し、そこからバスとレンタカーを使って仙台に戻り、午後からJR側との打ち合わせに入った。 東日本大震災や昨年2月の福島県沖地震でも東北新幹線の復旧工事に当たった東北支店では、工事に必要な資材の調達規模などをある程度想定できた。「一番大事なのは人だ。社員と協力会社のほか、資材対応も含めて見切り発車だがすぐに準備を進めた」(森田)。同日に支店に協力会の主要会社幹部を集め、復旧工事への協力を頼んだ。 損傷した電化柱の復旧対応について、JR東日本から福島・白石蔵王駅間と仙台以北の新幹線総合車両センター付近までを主に任された。近傍の現場にいた職員らをできる限り集め、現地確認を進めるとともに、3月20日から作業に着手できるよう、東北支店では協力会社らと打ち合わせを重ねた。 着手当初は電化柱の折損など20本の復旧対応を予定していたが、最終的には51本に上った。担当エリアも追加となり、東北支店だけでは職員をまかなえないため、本社からの応援を緊急要請した。 白石蔵王駅(宮城県白石市)の南側近傍の脱線現場での車両が撤去されないと、周辺エリアの復旧作業に着手できない。「同業他社の担当工区では損傷が激しいストラクチャーの復旧などに苦労した一方、大林組の担当工区は他社に比べて施工難易度は低いかもしれないがエリアは広く、施工数量は多く、工程もどんどん厳しくなった」(森田)。 仙台・一ノ関駅間を4月4日に運転再開させるため、とにかく仙台以北の作業が急がれた。緊急時の復旧工事では休む間も惜しまれるが、災害発生リスクの高い夜間作業は基本的には行わないことにした。「(1日の作業時間は)早朝から遅くても午後8時までを目標に定めた」(森田)ことが、作業の負荷軽減と効率化に寄与した。無事故で作業を完遂したことが早期復旧につながった。 延べ約1100人の作業員を投入し、本社土木本部とも常に連携しながら人員、工程などの問題点を共有してきた。過去の経験に基づく資機材の早期発注、ITツールの活用、関係各所との密な連携などが功を奏し、仙台以北の作業を3月中に終え、残るエリアも4月8日までに完工した。 復旧工事に参加した若手社員には、普段の現場にはない緊張感とやりがいを感じる人も多かったという。「なかなか経験できる作業ではなく、歴史の中の一つ。(建設業が担う)社会貢献といった使命を感じられる非常に大きな経験になっただろう」と森田は語る。=敬称略