◇100年先見据えた街に
旧日本国有鉄道(国鉄)の分割民営化に伴い、JR各社が発足後35年という節目を迎えた。広範囲に鉄道路線を抱えるJR東日本は輸送力や利便性向上に努めつつ、駅周辺開発など非鉄道事業に注力。柔軟で多角的な経営姿勢の下、多数の駅利用者が交流し合える場を提供してきた。山手線で約50年ぶりに新駅が誕生し、周辺では国内と世界を結ぶ新たな交流拠点の整備が着々と進んでいる。
多くの人々の移動を支え、陸上輸送を通じて日本の経済成長のけん引役を担っているJR東日本。分割民営化を経て、駅周辺で数々の街づくりを進めてきた。2020年には山手線の新駅「高輪ゲートウェイ」(東京都港区)が開業。羽田空港(同大田区)や品川駅(同港区)にも近い同駅は国際競争力を強化する上で不可欠な存在と言える。
駅周辺では現在、大規模な開発事業「高輪ゲートウェイシティ(仮称)」が急ピッチで進む。開発コンセプトは「Global Gateway」に設定。コロナ下で進展した多様な働き方や新しい生活様式の在り方を提示する「100年先の心豊かなくらしのための実験場」を将来像に据える。品川車両基地として使用していた約13ヘクタールの広大な敷地を1~6街区に分割し、1~4街区を第I期開発と位置付けている。
うち4街区では複合棟I(延べ約46万平方メートル)などが24年度末に開業する予定。残る1~3街区に整備する住宅棟(約14・8万平方メートル)と文化創造棟(約2・9万平方メートル)、複合棟II(約20・8万平方メートル)は25年度中の開業を目指す。5、6街区が対象の第II期開発は30年以降になる見通し。JR東日本は、高輪ゲートウェイシティを核に「日本や世界中をつなぐ拠点として新たなビジネスと文化が生まれ続ける街」を目指す。
駅周辺では鉄道遺構の「高輪築堤」が出土した。有識者から寄せられた「我が国の近代史と鉄道史、産業史上貴重な遺跡」との意見も踏まえ、JR東日本は駅周辺開発に合わせて高輪築堤の保存・活用を決定。鉄道会社として「地域の歴史的価値向上と地域社会への貢献を目指す」考えだ。国内初の鉄道が開業した150年前にタイムスリップした感覚が味わえるのも駅周辺の魅力の一つになりそうだ。
鉄道輸送などで培った技術は、海を渡り海外にも進出している。現在、JR東日本はインドで計画中の高速鉄道プロジェクトやタイの首都バンコクを対象にした高架鉄道路線「パープルライン」の整備事業に参画。インドネシアやミャンマーなどの鉄道事業者に対する車両譲渡、技術支援も展開する。
海外展開を通じて「JR東日本グループの人材育成と(プロジェクトの)過程で得た知見と技術力などを国内に還元する」狙いがある。日本の鉄道規格の普及に加え、「生活サービスも含めた総合力を生かし、高品質・高効率な鉄道インフラシステムを展開」する。国際事業を対象にしたビジネスモデルの構築に一段とギアを踏み込む。