鉄道各社の展望-開業150年-/東京メトロ/新線建設へ、技術継承を積極化

2023年2月2日 ニュース

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東京メトロは首都圏で9路線を運営し、生活や経済活動を支えてきた。利便性をさらに高めるため有楽町線と南北線の延伸事業が始動。技術の継承と挑戦の場として難易度が高い都市土木工事に向き合う。駅周辺の再開発事業への参画や、デジタル技術による業務の効率化などにも力を注ぐ。コロナ下で社会が大きく変化する中、柔軟で筋肉質な企業体質の構築を目指す。
新線建設について同社は、2022年3月に国土交通相から有楽町線延伸(豊洲~住吉間、4・8キロ)と、南北線延伸(品川~白金高輪間、2・5キロ)の第1種鉄道事業許可を受けた。いずれも30年代半ばの開業を目指し、延伸事業が動き出している。
これまでも埋設物が多い都心の地下空間で新線建設や駅改良に取り組みながら技術を磨き、知見やノウハウを蓄積してきた。だが新線建設は08年開業の副都心線以来。この約15年の間に入社した若手社員はトンネル工事などを経験していない。そこで技術力の維持や継承などを目的に昨年4月、鉄道本部内に新線専門の部署を新設した。過去に新線建設など大型プロジェクトに従事した先輩社員の技術・技能や経験知を伝えていく。
工事に必要な用地の取得についても、社員を外部に出向させて専門知識の習得を図る。次代を担う社員を育成しつつ、延伸プロジェクトに総力を挙げて挑み、企業の成長につなげる。
沿線のまちづくりでは「都市創造の担い手として開発などを主導し、新たな価値を創出する」(東京メトロ)方針だ。不動産事業に関わる人材力を底上げするため、デベロッパーなどと共同で再開発事業に取り組み、新たな知見を吸収する。小田急電鉄や東急不動産とともに進める「新宿駅西口地区開発計画」は、地下5階地上48階建て延べ約28万平方メートルの高層ビルを整備するプロジェクト。昨年10月に閉館した小田急百貨店新宿店本館を解体し10月にも新築工事に着手。30年3月の完成を予定している。
明治神宮前駅近くの渋谷区神宮前6丁目地区でも再開発事業に取り組んでいる。施行会社を東急不動産と共同出資で設立。神宮前交差点の南西角にある約3000平方メートルの敷地に地下2階地上10階建て延べ約2万平方メートルのビルを建てる。商業・公共公益施設や鉄道用変電施設、駐車場などの機能を入れる。24年春の開業が決まっている。
デベロッパーとの共同事業のほか、他社との積極的な人事交流や外部研修会の活用などを通じて事業拡大に向けた基盤を固める。
新型コロナウイルス感染拡大は、鉄道業界に大きな影を落とした。在宅勤務の普及などで利用者が減り、旅客運輸収入が大幅に減少。今後も「コロナ前の水準には戻らない」(同社)と想定する。不透明な社会・経済情勢の中、デジタル技術を駆使しコスト削減や業務効率化を徹底するとともに、企業価値向上につながる取り組みを地道に続け、成長の足掛かりにする。
都内の観光地や商業施設と連携して外出需要を創出するほか、コロナ後の顧客の新たな日常を支える事業などを展開する考え。全てのステークホルダーから信頼され、選択され、支持される最優良の鉄道会社を目指す。