[20230323-12-04-001]デジタルで建設をDXする・93/樋口一希/BIMデータに値付けした初の事例[n1]
清水建設は、顧客がクラウド上の竣工BIMデータを閲覧できるとともに、要望に応じて竣工BIMデータをカスタマイズするサービスを4月から提供する。建物用途や規模、LOD(※)により異なるが、中規模の一般事務所ビルで200万円程度からと、BIMデータに値付けし、公にした初の事例として注目できる。
□施工BIMデータを正規化してLOD100~200に編集、竣工BIMデータとしてクラウド上に保管□
サービスの提供に際しては、設備本部内に設けた専門チームと、業務提携したベトナムの大手設計事務所が協働して、竣工BIMデータを製作する体制を構築し、年間200件程度のモデル化に対応する。
顧客が竣工BIMデータを利活用しやすいように、施工BIMデータを正規化してLOD100~200に編集し、竣工BIMデータとしてクラウドサービス「BIM360Docs」上に保管する。顧客は、クラウド上の竣工BIMデータを閲覧できるので紙ベースの竣工図書が不要となり、グループ会社のプロパティデータバンク(東京都港区)が提供する不動産管理クラウドサービス「@プロパティ」と竣工BIMデータを連携させることで、建物の維持管理履歴や修繕計画などを竣工BIMデータ上で確認できる。
竣工BIMデータのカスタマイズは、新たなビジネスとすると宣している。商業施設では竣工BIMデータを加工して仮想空間と現実空間のデジタルツイン基盤を構築、劇場やイベント施設では竣工BIMデータ上にイベント時の舞台設営を再現することで観客席からの視認性や音響効果の評価も可能となるなど、広範囲な応用が可能となる。他社施工物件も含め、顧客の保有する2次元の竣工図書のBIMデータ化や、竣工BIMデータのアップデートなどのサービスも提供する。
□設計・施工・製作・運用をBIM連携する「Shimz One BIM」の最終工程□
清水建設は5億円超を投じて設計・施工・製作・運用をBIMで連携するプラットフォーム「Shimz One BIM」を構築してきたが、今回のサービス展開をもって「Shimz One BIM」の最終工程に位置付ける。
「Shimz One BIM」は、中期デジタル戦略2020「Shimz デジタルゼネコン」の一翼を担うプラットフォームだ。BIMソフト「Revit」を中核に据え、設計・施工案件については、設計BIMデータから施工BIMデータを経て、竣工BIMデータに至るまで一貫したデータ連動を実現する。他社の設計案件については、設計図書類を設計BIMデータに変換して施工段階から「Shimz One BIM」上に展開して運用する。
□建設の側からBIMデータの本来的な受益者である建築主にBIMデータの価格を設定して提示□
本連載は、日本IBMが既築の自社ビルをBIMモデル化し、経年的な維持・管理にかかるコストを試算した事例からスタートした。北里大学病院の新病院建設に際して、病院側が設計段階からBIMを用いることを要請した事例も報告した。建築主に焦点を当てたのは、創るBIM=設計BIMから、建てるBIM=施工BIMを経て、維持管理するBIM=FM BIMへと至るデジタルの援用は、建設業内部にとどまらず、最終的な受益者としての建物のユーザーである建築主、広く社会の側に寄与するからだ。
BIMの黎明(れいめい)期には、BIMデータの構築コストは建設の側の持ち出しであり、建築主にBIMデータを提供する場合も、コスト請求はできず、契約の枠外で暫定的に行われていた。BIMが認知されるに従い、データ構築のコストが認定され、値付けもでき、請求も可能になるはずだと想定していた。建設の側からBIMデータの価格設定を行い、建築主に提示できる段階を迎えた。本事例は、BIMの歴史を振り返る時、BIM推進を加速化させる重要な契機となったと記録される。
※LOD(Level Of Development)=BIMモデルの詳細度の表記(方法)。
〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)