デジタルで建設をDXする・95/樋口一希/日建設計のデジタル援用の現在地・上

2023年4月13日 ニュース

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国土交通省が建築BIM加速化事業に80億円の予算を計上し、2025年度にはBIMでの建築確認申請の試行を開始する予定であるなど、BIMの状況が急進している。こうした中、buildingSMART JapanでBIMによる確認申請の取り組みにも関わるなど、日建設計の安井謙介氏(設計監理部門品質管理グループ技術部アソシエイト)の官民横断の活動から、「やさしいBIM」「ライフサイクルコンサルティング」をキーワードとして日建設計のデジタル援用の現在地を2回に分けて報告する(「やさしいBIM」は日建設計コンストラクション・マネジメントの登録商標)。

□完成後のBIM-FMシステムの活用を想定して公募型プロポで日建設計の「やさしいBIM」採用□
京都府八幡市役所を訪ねたのは20年1月末だ。当時、八幡市では23年完成予定で新本庁舎建設プロジェクトを進めており、完成後の施設管理にBIM-FMシステムを活用するべく公募型プロポーザルを経て日建設計の提案「やさしいBIM」を採用した。
公共施設において完成後のBIM-FMシステムの活用を想定し、設計・施工から施設管理に至るまでの情報連携が設計仕様書に記載されるなど先駆的な事例であり、BIM-FMシステム構築を単独で受注し、設計事務所の職域を施設管理へと深化した事例として特筆できる。基本設計は山下設計関西支店、実施設計と工事施工は奥村組・山下設計特定建設工事共同企業体が公募型プロポーザルを経て受注。

□IWMSとしてISO準拠の「ARCHIBUS」を採用し将来的には既築建物の多棟一括管理も計画□
「やさしいBIM」は、「施設管理の専門家でなく建物の利用者(市職員)が使いやすく、経験やノウハウを蓄積して共有できる仕組み」(安井氏)として提案された。
「やさしいBIM」のコンセプトに基づき、BIM-FMシステムを包含するIWMS(Integrated Workplace Management System=統合型ワークプレイス管理システム)として採用されたのは、国際基準ISOに準拠する「ARCHIBUS」だ。ARCHIBUSは、BIMソフトを含む複数のソフトウエアプラットフォームを統合し、職場の施設管理、資本プロジェクト管理、施設メンテナンス、不動産ライフサイクル管理、リソース管理を最適化するソリューションである。
設計と施工でのBIMモデルは、BIM-FMシステムに移行できるが課題も潜在する。施設管理では、基本設計のLOD(モデル詳細度)で充足できるのでBIMモデルは援用できるが、基本設計では設備機器類の詳細な仕様などは未決定で、完成後の施設管理に必須な、BIMのInformationに相当する各種情報は網羅されない。そのため新本庁舎では完成を踏まえて「ARCHIBUS」に各種情報を追加・再投入、将来的に160棟に及ぶ既築建物の多棟一括管理も目指すなど「やさしいBIM」は進化を続けている。

□事業者に寄り添い「やさしいBIM」をもってライフサイクルコンサルへと設計の射程を伸延□
「やさしいBIM」は3年余りを経て、「企画から維持管理まで建築情報を一元管理し、事業者が主体的に利用できる」までに進化した。重要なのは、事業者に対して第一義的に「やさしい」とし、事業者がユーザーとなるBIMソリューションと明示したことだ。
事業者は、完成をスタートとして、使用エネルギーの可視化でランニングコストを抑制、修繕履歴のデータ化で修繕作業を最適化するなど、建物の運営や維持管理を長期にわたって効率化することが必須だ。これは既築建物も同様で、この分野の職能は、国交省のBIM推進会議でライフサイクルコンサルティングと位置づけられ、サステナブルな社会へ貢献するとして脚光を浴びている。事業者、建築主、発注者に最も近く寄り添い、グループ会社でCM専業会社である日建設計コンストラクション・マネジメントとの協働により、「やさしいBIM」をもって「建物のライフサイクルコンサルティング」へと設計の射程を伸延している。
〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)