BIMの課題と可能性・31/樋口一希/組織論としてのBIM運用・2

2014年9月4日 トップニュース

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 建築技術者総勢55人からなる千都建築設計事務所(千葉市美浜区)。約2年間をかけて計画的かつ戦略的に「組織論としてのBIM」運用を進め、設計者の経験値として、BIMのメリットを組織内に蓄積していった。


 □施主への説明にも3次元モデル+2次元図面(データ)を用いて合意形成の質を高める□

 鉄骨造3階建てのホテルにおいて『コミュニケーションツール』としてのBIMの有効性が明確になった。

 3次元のプレゼンソフトを利用し、施主への説明は行っていたが2次元図面とは連動しない。BIMでは3次元モデル+2次元図面(データ)が作成でき、作業効率が上がるのと合わせて、施主へも『3次元+2次元』で複合的な説明ができる。

 画面には2次元図面(平面図)と3次元パースが表示されている。施主は平面図で各部屋間の関係性などを把握でき、同時に3次元空間の中の移動まで疑似体験できる。内観パースでは、複雑な天井の形状、照明の加減、インテリアの色調やテクスチャーまでリアルに再現できる。

 施主との円滑なコミュニケーションによって、後々、発生する可能性の高い「齟齬(そご)やうっかりミス」を事前に軽減し、合意形成のトレーサビリティーを確保する。設計者は、BIMが優れたプレゼンツールであると共に、設計の質を総合的に高めるとの認識を深めていった。


 □BIMで施主+ユーザーのニーズを発掘することで設計者のマーケティング能力を高める□

 鉄骨造2階建ての保育園においては、『コミュニケーションツール』としてのBIMの射程距離はさらに伸長した。

 保育園のユーザーは園児たち。直接、ヒアリングできないので保護者の意見を尊重し設計に反映させる。BIMが稼働するパソコンを現地に持ち込み、打ち合わせする中で、従来の2次元図面では困難だったニーズを発掘した。

 一例として「床から開口部(窓)までの高さ=内外部への視線の確保」。保育園のユーザーである園児たちと保育士たちの日常使いと合わせて、地域のイベントなどでも利用する保護者の意見も総合して、開口部までの高さ設定を微調整した。

 2次元の平面図、断面図などでは、建築の素人である施主やユーザーは開口部までの高さは意識しなかった(できなかった)。

 BIMは設計者のマーケティング能力を高め、よりユーザー・オリエンテッドな設計を可能にする。


 □2次元図面(データ)との融合による作図チェック時間短縮を設計の質的向上に結びつける□

 『コミュニケーションツール』としてBIMは施主への見える化、建築工程の中での見える化、設計者自身の見える化を実現する。それによって、施主は設計案への理解を深め、設計者は関係者への説得力を高め、合意形成の質的向上+時間(コスト)短縮を可能にする。

 さらに、BIMによる3次元モデル+2次元図面(データ)の連動は、作図チェックに要した膨大な時間(コスト)を60%から30%へと半減させ、設計検討と施主対応の割合を大幅に増やした。

 次回はBIMの『図面作成ツール』としての優位性を、2次元CAD状況と比較・検討した同社のリポートを基に報告する。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)