関東地方整備局荒川下流河川事務所は1日、東京都北区の赤羽会館で荒川放水路の通水100周年を記念したシンポジウムを開いた。学識者らが気候変動や治水に関する講演を行ったほか、行政、経済団体、市民団体の関係者が荒川放水路の未来をテーマに意見を交わした。地元住民を中心に約150人が参加した。
講演では加藤孝明東京大学生産技術研究所教授が、気候変動により気温が2度上昇することで水害の頻度も倍増すると解説。「気候変動の速度は予想以上に速い。当たり前になる水害にどう社会は向き合うべきか。ゼロではない水害リスクといかに共生していくかを考えないといけない」と訴えた。
国は水害を軽減するため「流域治水」を推進している。流域のあらゆる関係者が協働して水災害対策に取り組んでいる。加藤教授は「流域は運命共同体だ。自分の暮らしを見る目と流域全体を見る目の二つの目が必要だ」と話した。
気象予報士の伊藤みゆき氏も講演。危機を回避するために知っておきたい予報として、気象庁の週間天気予報や、大雨による洪水、土砂崩れなどを住民に伝達するアプリ「キキクル」を紹介した。「激しい雨が降っている時は川幅が狭い川が氾濫し、その後、川幅の広い川が氾濫する。台風一過で空が晴れても、太い大きな川はまだ水位が下がっていない」と話し、「キキクル」などの活用を促した。
講演の後に開いたパネルディスカッションでは、越野充博東京商工会議所北支部会長が「日本の国内総生産(GDP)は約600兆円。東京だけで120兆円近い。大水害が起きた時に『右半身』がまひする状況になる。この前提に立って経済行為が安心・安全で行われるインフラであってほしい」と話した。
山田加奈子北区長は「北区は25メートルほどの高低差がある。浸水対策は区民のみなさんに自分ごととして捉えていただくように政策を進めてきた」と述べた。避難行動の基本指針の改定や、水害リスク診断書の住民への郵送などこれまでの施策を紹介した。
菊田友弥荒川下流河川事務所長は「荒川の上流に第2調節池と第3調節池を造っている。2030年に完成するが、来年の大雨の時期の前までに一部分だけでも使えるように工夫している」と説明し、気候変動に伴う大雨に対して先手を打つ方針を示した。