海外渡航に必要な手続きのために初めて公証役場に行った。キーボードのタイピング音が響くだけの静まりかえった空間は、どこか落ち着かない気持ちになる▼身構えつつ公証人の登場を待っていると、優しい雰囲気の男性が来てくれた。同席は30秒ほどの短い時間ながら、こちらの署名をにこやかな顔で見届けてもらい公証人の「認証」が得られた▼建設業にも署名や記名押印が義務の手続きがある。事務の簡素化や効率化を目的にデジタル技術の導入が進んでいるが、義務の見直しや規制緩和を求める声は依然多い▼政府の規制改革推進会議が建設工事の請負契約手続きに関し、署名や記名押印規制の合理化を答申した。署名などが不要な例の周知ととともに、いわゆる立会人型の電子署名の利用を明確にする措置などを求めている。今後、関係機関が対応していく▼公証人は「遠い国ですね、気をつけて行かれて下さい」と声をかけてくれる気さくな人だった。合理化や電子化が進むことを大いに期待しつつも、将来の行き着く先が知らなかった場所を訪れる必要などなく、人に会う機会も減ってしまう世界ではさみしい。