ワールドワイド/ミャンマー中部地震、日本政府が被害の大きかったタイを支援

2025年6月11日 論説・コラム [10面]

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 ◇知見を復興に役立てて/安全管理、点検技術など共有
 3月28日、ミャンマー中部を震源とするマグニチュード(M)7・7の大地震が発生し、同国全土を激しい揺れが襲った。震源地周辺は甚大な被害が生じ、国境を越え約1000キロ離れたタイの首都バンコクでも建設中の高層建築物が崩壊するなど影響が出た。地震大国の日本はこれまでの知見や経験を生かし、地震メカニズムの解析や、構造物の点検や安全対策支援に取り組む。
 震源はミャンマー中部マンダレー付近。震源の深さは約10キロ。ミャンマーを南北に貫く延長約1200キロの活断層「サガイン断層」がずれ動き、地震を発生させたと見られている。サガイン断層は非常に活動的な断層で、これまでにもM6、7クラスの地震を繰り返してきた。今回の震源となった断層中央部は100年以上にわたり巨大地震が発生していなかった。
 気象庁によると、断層の西側が北へ、東側が南へずれる「横ずれ断層型」の地震が起きた。震源付近は国際的な改正メルカリ震度階級で「9」、日本の気象庁震度で「7」に相当する激しい揺れだったと推定される。
 国土地理院は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が運用する陸域観測衛星「だいち2号(ALOS-2)」に搭載された合成開口レーダー(SAR)で震源域付近を観測し、ずれ動いた断層の延長が約400キロに及ぶとする分析結果を公表した。断層は最大6メートルずれていた。震源が浅く、ずれ動いた断層が長いため、強い長周期地震動につながった可能性があるという。
 国際航業もSARによるミャンマー国土の観測結果を発表している。欧州宇宙機関(ESA)の人工衛星Sentinelー1を使い、干渉SAR画像を分析し同国国内の建物被害状況を推定。地震前後の画像を比べ被害の状態を可視化した。マンダレー市などの市街地で断層に沿って建物被害が集中しており、川沿いの低地でも大きな被害を確認した。
 東京科学大学の山中浩明教授らの研究グループが、5月に開かれた日本地球惑星科学連合2025年大会の緊急セッションで、ミャンマー地震と長周期地震動の関係について報告した。中山教授らは地震時にバンコク市内で撮影された動画を分析し、高層建築物の固有周期と長周期地震動の関係性を調べた。
 建物34棟が揺れる動画を収集。屋上プールの水があふれる様子から固有周期を分析する手法と、画像分析で建物の変異波形を推定する手法の二つを用い、建物の固有周期を算出した。さらに現地入りし建物付近で微動観測を行い、地盤特性を確認した。バンコクは河口近くに位置し、地下に厚い堆積層があることが分かっており、観測結果はそれを裏付けた。
 ミャンマー地震は現地地震計が、6~8秒の周期でピークを持つ長周期表面波を観測した。中山教授らはこうした地質が長周期地震動を増幅し、高層建築物を大きく揺らした原因となったと指摘している。
 バンコク市内で建設中の高層ビルが地震により崩壊するなど、大きな被害はタイ国内に社会不安を引き起こした。地震前には建設中の高架道路が崩落する事故が発生しており、建設分野の安全性に対する不安に拍車を掛けた。対応に迫られた同国政府は、日本政府に対し土木・建築分野での支援を要請した。
 道路分野について国土交通省は、同国内で技術協力などの実績が豊富な首都高速道路会社、土木研究所(土研)と協力し、専門家を現地に派遣。建設中と建設後の安全管理、安全点検のノウハウを提供するため、日本側は技術ワークショップなどを通じて知見を提供した。
 10日にはバンコクで国交省の廣瀬昌由技監らが参加する「日タイ技術協力会議」を初めて開催した。地震後や建設中の安全確保をテーマに意見を交わし、日本の持つ知見やノウハウを復興に役立ててもらう。
 建築分野は国交省、建築研究所(建研)、国土技術政策総合研究所(国総研)、国際協力機構(JICA)の専門家が現地入りし、建物の耐震性や安全確保について現地担当者と意見を交わしている。タイ政府からは信頼性の高い日本の技術への期待が示されているという。
 長周期地震動によって震源から離れた場所の超高層建物が大きく揺れる現象は過去の地震でも発生しており、日本でもそのリスクを抱えている。中山教授は「地震学と地震工学の両分野の研究者が協同し、長周期地震動評価や長大構造物の地震リスク評価・被害対策を考えていくことが必要だ」と警鐘を鳴らす。