同じ言葉でも全く異なる意味を持つケースがある。例えば「いい加減」。良い意味では「ちょうどいい」「適度」、悪い意味で「投げやり」「中途半端」などとなり、普段はどちらかというと後者の使われ方が多いようだ▼減らす、手放す、忘れる--。そうした禅の教えが分かる『心配事の9割は起こらない』(三笠書房)の中で、「いい加減」を肯定的に捉えたその心得が書かれている▼著者は庭園デザインも手掛ける禅僧の枡野俊明氏(曹洞宗徳雄山建功寺住職)。人は仕事で自分の力量に見合ったことしかできないが、この「いい加減」を知る人が全ての物事を堅実にこなし、周囲からの信頼を得られるのだという▼では力量以上のことは諦めるしかないのだろうか。力量と限界値は異なり、力量を超えても必死に努力すれば何とかなる範囲の限界値にチャレンジし、それをクリアすることでレベルが上がり自信もつく、と枡野氏は説く▼日常の仕事や生活では「いい加減にして」と口に出したくなることもある。そう言ってため息をつくだけでなく、自分の力量すなわち「いい加減」を心得れば見方や捉え方が変わるかもしれない。