土木学会の第113代会長に就任した。少子高齢化と人口減少、インフラの老朽化、気候変動に伴う災害の激甚・頻発化など複数の構造的課題が同時に進行する時代に入ったと認識。その上で「課題を乗り越えることで『課題解決先進国』として、世界に先駆けて持続可能な社会像を提示できる」と確信する。取り組むべき社会課題が多岐にわたる中、会長プロジェクトとして「カーボンニュートラル(CN)でレジリエントな社会づくり」をテーマに据えた。=2面に関連記事
--就任の抱負を。
「土木の道を志したきっかけは中学生の頃に読んだ内村鑑三の『後世の最大遺物』。『われわれの生まれたときよりもこの日本を少しなりともよくして逝きたい』『一つの土木事業を遺すことは、永遠の喜びと富とを後世に遺すことではないか』という一節は、私の志の原点だ。歴代会長が築いてきた系譜に連なることを光栄に感じる。重責を担い、身の引き締まる思いだ。各支部とも連携して土木学会の活動を一層充実、強化していきたい。土木の力で社会の未来を切り開くべく、学会がその先導役となれるよう皆さまと共に歩んでいきたい」
--学会の果たす役割は。
「従来の枠にとらわれない新たな取り組みが必要となる。自然科学と社会科学の知見を融合し、分野横断的な連携を図る総合的なアプローチが求められている。土木分野はもともと多様な関係者と協働しながら社会基盤を支えてきた領域であり、課題解決に重要な役割を果たせる。学会としても総合力を発揮できる人材の育成や、多様な専門家が自由闊達(かったつ)に意見交換できる環境整備をさらに進める必要がある。異なる立場や視点が交差することで、実効性のある解決策が見いだされ、学術と実務の橋渡しも可能となる。学会の重要性は今後ますます高まっていく」
--会長プロジェクトの方向性は。
「気候変動により災害が激甚化・頻発化し、近年は毎年のように災害が発生している。CN実現に向け、これまでは水害対策を中心とした『適応策』に取り組んできたが、会長プロジェクトとして気候変動の『緩和策』に取り組む。CNの取り組みは既にまちづくりや交通、水管理、インフラ整備など分野ごとに緩和策が講じられているが、全体像を体系的に把握するのが難しい状況だ。こうした取り組みの構造を俯瞰(ふかん)し、体系的に整理する。緩和策をより効果的に進めていくため、CNの障壁となっている事柄を明らかにする。克服に向けた方策を学会として積極的に議論し、災害時のレジリエンス強化につながるCNの取り組みを発信する」。
(6月13日就任)
(いけうち・こうじ)1982年東京大学大学院工学系研究科土木工学専攻修士課程修了、建設省(現国土交通省)入省。河川局(現水管理・国土保全局)河川計画課長、近畿地方整備局長、水管理・国土保全局長、技監などを経て2023年7月に河川情報センター理事長に就任。土木学会関西支部長を務めた。兵庫県出身、68歳。