回転窓/巨匠、どうか安らかに

2025年6月24日 論説・コラム [1面]

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 スパイ小説の巨匠で1971年に刊行した『ジャッカルの日』などの作品で知られる英国の作家、フレデリック・フォーサイスさんが6月9日に亡くなった▼架空の暗殺計画が実際の歴史的事実の中に巧妙に織り込まれ、読む者に現実と虚構の境界を見失わせるほどの説得力を持たせた。『ジャッカルの日』は世界的ベストセラーになり、映画化もされ、スパイスリラーの新境地をを開いたと評価されている▼フィクションでありながらも事実に迫るジャーナリスティックな手法で書き上げる小説の原点は、BBCやロイター通信の記者としてコンゴ動乱やナイジェリア内戦を取材した経験にあるとされる▼緻密な調査と細部にこだわる技法、実在する登場人物など、磨き込まれたリアリズムが単なる娯楽を超えた「知的な読み物」としての重みを作品に与えている。小欄が初めてフォーサイスの作品を読んだのは高校3年生の時だった▼登場人物の心理描写まで踏み込んだ文章に心を奪われた記憶がある。娯楽を超えた知的で重厚な読み物に出会ったことが記者職の奥深さを知ったきっかけ。当時買った本を今も大切にしている。