回転窓/素敵な文脈の中で生きる名建築

2026年3月9日 論説・コラム [1面]

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 「建築探偵」こと藤森照信東京大学名誉教授が、街中の近代建築を探し歩き始めたのは1970年代にさかのぼる。その営みが書かれた本を読んで触発され、建築の道に進んだ方もおられよう▼名著『建築探偵の冒険・東京篇』が刊行されたのは86年。本書の冒頭を飾るのが、東京・白金台にあった旧渡辺甚吉邸だ▼小路に入ると、奥に英国伝統のチューダー様式を取り入れた建物が姿を現す。吸い寄せられるように近づいて見ると、「小(こ)振(ぶ)りではあるが手の良い秀品」と分かったという▼岐阜の名家・渡辺家14代当主甚吉が34年に建てた私邸。長い歳月を経て取り壊しの危機にひんしたが、研究者や有識者が文化価値の高い建築として保存を求め、2022年に前田建設が自社の研究施設「ICI総合センター」(茨城県取手市)に移築し復元した。翌年から公募形式で一般公開している▼2月には取手市のふるさと納税返礼品として、国登録有形文化財・甚吉邸での食事体験付き貸し切り見学の提供も始まった。企業と地域が守り活用し、来訪者が貴重な建築文化に触れる。こうしたつながりの中で、名建築はこれからも生き続ける。

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