熊本地震から10年/インタビュー・2/阿蘇大橋地区斜面対策

2026年4月14日 熊本地震から10年

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 2016年4月16日に発生した本震では、熊本県南阿蘇村の阿蘇大橋地区で大規模斜面崩壊が発生し国道57号とJR豊肥本線が寸断、国道325号阿蘇大橋が崩落する甚大な被害となった。斜面を安定化させる災害復旧は、これら交通の大動脈を再建するための大前提となる工事だった。

 ◇熊谷組九州支店大切畑ダム工事所長・北沢俊隆氏、大切畑ダム作業所副所長・土屋任史氏
 土屋任史氏(以下、土屋) 九州地方整備局九州技術事務所との災害協定に基づき、16年4月21日に現場へ向かった。崩壊長最大約700メートル、崩壊幅最大約200メートル、崩落した土砂の量も約50万立方メートルという見たことがない圧倒的な土砂崩壊の規模に「とにかく危ない、これは入れる状態ではない」と感じた。
 同5月2日に緊急対策の斜面防災対策工事が始まり、監理技術者を務めた。斜面下部に上下2段の仮設の土留めを作るのが主な作業で、二次災害を防ぐため無人化施工で行った。雲仙普賢岳での施工実績をベースに改良し、約1キロ離れた遠隔操作室から作業可能なネットワーク対応型に高度化した無人化施工を導入した。
 最大14台の重機をカメラ越しに無線を通じて操作した。作業時間は日の出から日没まで。雨の日は阿蘇特有の「黒ボク」や「赤ボク」と呼ばれる土がぬかるみ、重機が入れず作業ができないためオペレーターは休んでいたが、われわれ技術者は不休で働いていた。
 北沢俊隆氏(以下、北沢) 16年8月から現場に入り、山頂に近い斜面の不安定土砂の除去作業(ラウンディング)を担当した。ラウンディングと落とした土砂の撤去も無人化施工で、セーフティークライマー工法とロッククライミング工法の2工法を採用した。ロッククライミング工法では従来の方法ではワイヤの長さが足りず、ウインチを搭載したバックホウを使いワイヤを延ばすなど新しい技術も取り入れた。
 土屋 防災対策工事は17年11月20日に完了した。安全かつ迅速に工事が進んだ最大の要因は、発注者とコンサルタント、施工者の3者が週に1度集まって開いた協議で、スピード感があったからこそ刻々と変わる災害現場に対応できた。
 北沢 防災対策と並行して恒久的な安定化に向けた計画も立案していた。本復旧の斜面対策工事は有人施工で17年7月に始まり、所長兼監理技術者を務めた。
 斜面の高さ50メートルおきに作業用の足場を組み、資材を運ぶための長さ約630メートルのケーブルクレーンを崩壊した斜面と、震災後の雨で崩れたガリーと呼ばれる部分に沿って2基設置した。ワイヤを張るためのアンカー用コンクリートが打てない中で、林業で行う丸太を地面に埋めてアンカーとする方法を採用した。過去にダム建設で使った方法で林業と土木の複合技だった。
 土屋 本復旧は20年8月に完成した。私は防災対策工事を終え現場を離れていたが、再び熊本に戻った際、自動車が往来し豊肥本線が通過しているのを見て本当に感無量だった。
 北沢 土木は経験工学と言われる。基本的な技術を身に付け、その確固たる土台の上に経験を積み重ねることが大事だ。そこに新しい技術を融合することで、かつて経験したことがない難工事に対応できたのがこの現場だった。

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