回転窓/途方に暮れ、吠える

2026年10月27日 論説・コラム [1面]

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 「月に吠える」という言葉には、誰にもぶつけられない感情を夜空の月に託すような響きがある。〈月に吠える犬は、自分の影に怪しみ恐れて吠えるのである〉(詩集『月に吠える』序文)。萩原朔太郎が作品に託したのも、孤独や不安、心の中で膨らみ続ける葛藤だったのだろう▼記者にも似た瞬間がある。取材先で聞いた言葉や理不尽な要求に腹を立て、記事にできない現実に歯がゆさを覚える。伝えたいことがあっても言葉を慎重に選び、紙面に収まる形に整えなければならない。書いて、消して、また書く。気づけば、やり場のない感情が胸の内で渦巻いている▼それでも記者は文章をつむぐ。声を荒らげる代わりにキーボードをたたき、叫びたい気持ちを抑えて言葉を重ねる。書くことしかできない、そんな時がある▼文章にしたところで、世の中が変わるとは限らない。理不尽は理不尽なままだし、抱えた孤独が消えるわけでもない。それでも、書く。誰かに届くかどうかさえ分からなくても、自分の中で膨れ上がった思いを、言葉にする▼途方に暮れながら、記事を仕上げる。そしてきょうも、心の奥で静かに吠えている。