BIMの課題と可能性・41/樋口一希/東芝エレベータのBIM運用・1

2014年11月13日 トップニュース

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 建築(建設)業は、建物を構成する膨大な数の部品・部材・装置を複合的に組み合わせるアセンブリ(組立)産業でもある。建物の構成要素としてのエレベータ、エスカレータにおけるBIM運用を報告する。


 □エレベータの製造工程の3次元化メリットを建築分野へのBIMモデル提供に結びつける□


 片山ストラテックの鉄骨BIMソフト「KAPシステム」の取材時に、同システムと高い親和性をもつ東芝エレベータのBIM対応が俎上に上がった。

 BIM運用がサブコン、設備業者などへと広がる中で、BIMとの関連で『設備(装置)=エレベータ』はどのように位置づけられるのだろうか。

 エレベータの製造工程における設計システムは、当初、2次元CADであったが、2次元図面データでの製造支援には限界があった。3次元CAD・CAMへの移行によって、エレベータ製造のリアルデータに直結するBIMモデル構築が可能となる。

 同時並行的に建築分野でのBIM運用が進展する中で2010年から本格的なBIMモデルの提供を開始した。

 現在、エレベータ分野で積極的にBIM対応している同社は、オートデスク社のRevit、グラフィソフト社のArchiCADを対象にサポートしている。

 BIMモデルは、同社ホームページからBIM特別会員になれば誰でも利用できる。


 □BIMモデル提供にとどまらず設計事務所や建設会社と連携する中でBIM運用の実利を提供□


 BIM対応の背景には自社業務の生産性向上があるが、目標は彼方に据えた。目指すべきは、顧客=建築(建設)業界との関係の再構築・連携である。

 BIMモデルを広く顧客に提供するだけでなく、BIMモデルを共通メディアとして顧客との連携を深めていく。

 設計事務所には、BIMモデルに基づき、企画・基本設計の早期の段階で目的に合致したエレベータを選択してもらう。設計協力を通じて技術情報を提供することで、設計事務所にとってはBIM運用の優位性として注目が集まっている『プレ・コンストラクション』への対策にもなる。

 建設会社には、BIMモデルに付随する詳細な情報に基づき、施工に直結する仕様を決定し、発注時期を早めてもらう。建設会社にとっては正確な工期の把握、迅速な施工計画の立案により生産性向上が可能となる。

 同社にとってもBIMモデル運用メリットは大きい。受注を『フロントローディング』することで製造計画の適正化が実現し、品質の向上に結びつく。最も効果大なのは、エレベータのBIMモデルを関連業者間のBIMモデルと重ね合わせて協議し、合意形成の経過が「見える化」できることだ。


 □建築工程のさまざまな局面に合致したBIMモデルを提供する顧客サービス体制を構築□


 エレベータの製造系と建築系の3次元モデル(データ)の間には特有のLOD(Level Of Development:Level Of Detail)が介在する。製造系の3次元モデル(データ)はエレベータの1分の1のリアルデータであり、数万点に及ぶ全部品・部材が網羅されている。建築側の3次元モデル(データ)用には適切な省略化をしている。ここにも建築のBIMモデルのユニークさがある。

 建物の外側からエレベータ外観を見ることができる全面ガラス張りのシースルー型エレベータでは稼働・機構部分を『見える化』するため一部、製造データも活用している。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)