BIMの課題と可能性・52/樋口一希/鹿島の「Global BIM」・4

2015年2月5日 トップニュース

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 建設業におけるBIM運用のマイルストーンとなると考えられる鹿島の「Global BIM」。社内外へ及ぶ広範な影響と今後の展開について報告する。


 □設計と施工を連携する『基本モデル』でゼネコンの優位性を確保して他社設計にも対応□


 鹿島が海外の外注組織を使ってBIMモデリングが可能なのは、各種設計情報をモデリングに適した初期入力データとして再定義し、鹿島仕様のLOD=『基本モデル』によって設計と施工の連携を実現しているからだ。

 海外での『基本モデル』作成による利点は安価な人件費の確保にとどまらず、多方面に及ぶ。鹿島は北米、アジア、ヨーロッパにグループ会社を展開しているが、中でも発展著しいアジアでBIM運用の拠点を確保し、「Global BIM」のノウハウをもって他社と差別化できる。

 本紙13年12月12日付1面に「設計・施工一括が増加/東京都内の大規模建築計画/4~9月は54件中24件」「ゼネコンの技術・ノウハウを有効活用してコストダウンを図る動き」とある。

 このような状況下、「Global BIM」によって、建設業本来の優位性を戦略的に追求するとともに、独自設定した『基本モデル』を用いて設計と施工を連携させることで他社設計への迅速かつ高度な対応が可能となる。


 □16年の全現場へのBIM適用に向けて実利を定量的に検証しつつ社内外へのBIM教育徹底□


 「Global BIM」を支える新しい職能としてのBIM推進グループ。「3次元モデリング+3次元→2次元図面作成のコストも約半減」など、BIM運用の実利を定量的に検証、社内に情報公開+合意形成しながら支援業務を遂行している。

 注目できるのは、「施工は施工本位で」=施工現場でのBIM運用を徹底する技術支援だ。事前ヒアリングを実施し、現場の規模、組織条件に応じたBIM活用の提案を行うとともに、実務に直結するよう海外モデリング会社への発注を行う。リアルタイムでの問題解決のため、ヘルプデスクも設け、現場出張での直接支援も行う。

 「スキル習得のための教育体制」。社内(外)教育についても明確なコスト管理を導入、海外を含む外注組織育成のコストも負担し、実施している。

 16年の全施工現場への「Global BIM」適用(14年度は150現場に適用)に向けて、BIMに最適なハードウエアの検証および刷新計画の策定、BIMアプリケーション=意匠系(ArchiCAD)+設備系+構造系の追加導入およびライセンス契約の適正化を進めている。


 □ベテラン技術者や女性の活用など新しい働き方の提案で技術承継と人手不足対策も講じる□


 「Global BIM」の進展とともに、社内外に当初の想定を凌駕するほどの影響が生まれている。ベテラン技術者ほどBIMを徹底活用できる可能性。見上げ図、見下げ図といっても、2次元図面では階を跨って次階まで描けない。3次元モデルを作成しながら設計上、施工上の特異点を立体的に確認し意思疎通できるので、フロントローディングがリアルに検証できる。技術承継や人手不足が課題となる中、ArchiCADのチームワーク機能でベテラン技術者を活用できるし、組織を離れた女性の活用も始まっている。

 現場にBIMモデルを持ち込み、型枠職人に見せる。例えば、床、階段など部材(オブジェクト)の関わりが図面以上に、視覚的に瞬時に把握できるとの声も上がる。

 「グラフィソフトジャパンは、最新版=ArchiCAD18+BIMcloudで本格的なクラウドサービスへ移行すると表明している。同社と共同開発した、特定のプロジェクトに参加している期間だけクライアントごとにライセンス供与できるBTC(BIMcloud Team client)の準備も整った。BIM普及のためには外部組織のコスト負担を軽減し、BIM活用のスキル向上を一挙に進める必要がある。鹿島の『Global BIM』での試みが、よりユーザー本位のBIM市場の形成に結びつくのを期待している」(鹿島建築管理本部建築技術部担当部長〈生産性向上・BIM責任者〉矢島和美氏)。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)