BIMの課題と可能性・53/樋口一希/大林組のBIM運用と推進組織・1

2015年2月19日 トップニュース

文字サイズ

 大林組のBIM運用及びiPad4300台の導入に象徴される業務と情報のデジタル化の革新について報告する。


 □3D CADの研究開発の知見と経験を引き継ぎBIM運用に向けて社内の組織を本格的に整備□


 図「BIMの普及」。取材時の15年1月末、PDセンターでは来年度末でのBIMの100%定着を目指し、着々とタイムテーブルを先に進めていた。

 80年代初頭、大手ゼネコン各社がメインフレームによるCADシステムを運用する中で、大林組はロッキード社開発のCADAM(※)を採用し、2次元図面のデジタル化と並行して3次元設計モデルの援用にも先駆的に取り組んでいた。

 3D CADの研究を継続する中で、08年にはBIMの設計施工一貫利用をテーマとした3DCAD研究開発チームを発足させ、まず技術研究所本館建設プロジェクトの設計フェーズにおいて検証し、10年4月には3D CAD研究開発チームの知見を引き継ぎ、BIM推進室(建築本部)の新設に至った。

 BIM推進室が中心となり、設計施工一貫利用の実物件として初めてBIMを採用したのが表参道の新たなランドマークであり、外装材を制振装置として活用する「フラマスダンパーシステム」など独自の最新技術を採用したオーク表参道(ハナエ・モリビル:旧青山大林ビル)だ。


 □実物件でのBIM運用で明らかとなった課題解決のために専門工事業者との協働態勢を強化□


 BIM推進室では実プロジェクトにBIMを適用する過程で、複数のBIMソフトを比較検討した。その結果、設計施工を貫く全モデルのプラットフォーム=主要なBIMモデル構築のための意匠系BIM:ArchiCADに加えて、設備系BIM:Tfas、構造系BIM:Tekla Structuresなどを基本ソフトとして採用することを決定した。

 オーク表参道では、BIM運用において解決すべき課題も明確となった。本来、意匠モデルをベースに設備と構造のモデルを統合した後に着工するべきだが、構造系モデルの構築環境が未整備で、2次元の構造設計図を採用するなど部分的には着工後のモデル構築となった。

 一方で、設計段階でモデルを構築しながら施工計画まで俯瞰できるなど、BIMの3次元モデルによる「見える化」効果は工程を跨いで絶大であった。構造では鉄骨ファブリケーターがTekla Structuresでモデル構築+工作図を製作、設備では設備工事会社がTfasでモデル構築し、両モデルの重ね合わせによる干渉チェック+問題箇所のリストアップを行った。建具製造会社は外装の一部の実施モデル構築にも協力している。


 □3次元モデルから約7割の2次元図面の自動生成を実現するとともに総合図の革新も実現□


 BIMによる建物の3次元モデルが流通するようになっても2次元図面は存在している。工事関係者間のコミュニケーションが2次元図面でも行われているし、行政への対応も求められるからだ。

 オーク表参道でのBIM運用では、3次元モデルから2次元の各種図面を切り出し、正規の設計図書として整備するシステム+体制づくりが大命題となっていた。ソフトベンダーのサポートを受けながら、BIM推進室では、ひとつの建物モデルを基に、一般図を中心に平面詳細図や建具表+仕上げ表から確認申請図、契約図までの作成を実現した。本稿で検証した他の事例と同様、大林組でも3次元モデルから約7割の2次元図面が自動生成できる環境を確立している。

 BIM運用の進展とともに、総合図の位置づけ+概念も革新された。従来、電気・空調・衛生の取り合いは意匠図と組み合わせた総合図上で行ったが、BIMによる3次元モデルをディスプレイに映し出し、関係者間で視認しながら、リアルタイムで調整する方法へと進化した。

 実施設計の進捗に合わせて関係者が集まり、3次元モデルを検討、修正、統合し、最新のBIMモデルへと改訂する体制も設けられた。異なる工程間を接続する総合図は「(製作すべき)目的・成果物」から「(BIMモデルによる副次的な)結果」へと位相変化したわけだ。

 ※CADAM=Computer Augmented Design and Manufacturing。米国ロッキード社が飛行機設計用に開発した機械系2次元CADソフトウエア。IBM社のメインフレームと共にセットで販売され、建築用CADシステムとしても運用されていた。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)