BIMの課題と可能性・56/樋口一希/深化する施工図事務所の職能・1

2015年3月12日 トップニュース

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 施工図事務所は、設計情報を施工情報に翻訳し、業際間を架橋する重要な役割を果たす。BIMによりデジタル化された建物情報をリアルな施工につなげる中で施工図事務所の職能は更なる深化を続けている。


 □誰が、いつ、どこで描くのかという課題を解決し、施工図本来の目的を完遂させるBIM運用□


 2次元CAD利用が離陸し始めた90年代初頭、筆者は設計のデジタル化に続き施工現場の調査を開始した。中堅ゼネコンの現場では、現場所長が国産2次元CADを施工図用にカスタマイズし、施工図事務所の女性オペレータを指導していた。

 他に例がないユニークな試みであったと同時に、施工図を取り巻く特有の課題解決へのヒントともなった。中堅ゼネコンでは独自開発の施工図専用CADを運用していたが、躯体図作成までが限度であり、時々刻々と変化する現場への適宜対応も困難であった。施工図事務所でのBIM運用を俯瞰すると、同様の課題が現在に至るまで引き継がれている。


 □2次元図面と3次元モデルを切り替え、施工情報を付加しながら建物情報の確度を高度化□


 「施工BIMのスタイル」(日本建設業連合会)の編纂に協力し、施工図事務所として先鋭的にBIM運用を進めているアートヴィレッヂ。所員がBIMソフト(ArchiCAD:グラフィソフトジャパン製)で2次元図面と3次元モデルを切り替えながら建物情報の確度を高めていく。九州在住の所員とチャットでやりとりしながら、チームワーク機能を用いてオブジェクト単位で加筆修正を協働している。

 画面上の3次元モデルを注視すると、BIMの有効性が即座に理解できる。2次元図面では「見上げ(図)」「見下げ(図)」表現があるが、階を跨がり、次階までは表記=視認できない。床(天井)面が「見える化」とは逆に『不可視面』として遮っているからだ。3次元モデルで床(天井)面のオブジェクトを半透明とすると、(複数の)階を跨がり、建物を視認できる。施工現場の実態をよく知るベテラン技術者だからこそ、BIM運用のメリットを瞬時に感得した。


 □LOD400へ、設計図書を読み取り未描写の情報を付加し、現場に必須な施工モデルを構築□


 BIMモデルの詳細度を定義するLODとの関連で施工図事務所の立ち位置を確認する。概略するとLODは、レベル100=企画設計モデル、200=基本設計モデル、300=実施設計モデル、施工図レベルは400。施工図レベルのモデル詳細度を確保する実際をみてみる。

 施工図では、各種設計図書を基に、施工者がコスト、品質、工期などを精査し、サブコンや現場職人など関係者に指示するための情報を付加する。具体的に施工図(例:平面詳細図)では、設計図書(例:実施設計図)には描かれていない壁の厚み、建具の形状・位置、通り芯からの距離などを付加し、図面未表記の情報も仕上げ表として付加する。現場で設計図書通りには施工できないケースが生じた際、設計者と協議する。このように「建物の設計情報を施工情報に翻訳する」ためには、設計図書を読み取り、施工図(モデル)に必要な情報を補い、付加する高度な能力が求められる。

 著名な建築物の写真が掲示されている。画面には秘匿すべき建物の3次元モデルが表示されている。契約面での位置づけもあるためか、建築メディアでも設計者と施工者は明示されるのに施工図事務所の名前は見当たらない。BIM運用のメリットを広く内外に開くために『設計と施工の間を架橋する』施工図事務所の社会的認知を進めるべきだ。

 「紹介事例は70歳と67歳のベテラン。経験豊富な彼らがBIMを使えば鬼に金棒だ。融資を依頼した銀行も『BIMとは?』と最初は理解しなかったが、資金回収計画とともに、業務革新に必要不可欠なのを説明し理解を得た。現業の効率化とともに、ゼネコンとの協働事例も増えるなど導入効果は顕著だ。BIM運用を通して所員の中に、建築生産の重要な一翼を担っているとの再認識が生まれたのが何よりもの成果だ」(アートヴィレッヂ代表取締役・原行雄氏)。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)