BIMの課題と可能性・58/樋口一希/深化する施工図事務所の職能・3

2015年3月26日 トップニュース

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 施工図事務所でのBIM運用による技術承継を検証し、更なる業務革新の可能性について報告する。


 □高い技術力で2次元の設計図には描かれていない施工情報をBIMで3次元モデルに付与□


 設計組織からは2次元の設計図が提供される。BIMが普及途上であり、LODのルールが未確定で、デジタルデータに関する権利関係も曖昧であるなど、業界として3次元モデルを流通させる合意形成、環境整備が行われていないからだ。

 設計図には描かれていない施工情報を付与した3次元モデルを構築し、取り合い調整、不整合部分の見える化によって平面詳細図と躯体図の同時修正を可能にしている。

 このように施工図作成の精度向上と効率化のためには、2次元の設計図を読み取り、BIMソフトを用いて施工のための3次元モデルを構築し、リアルな現場との間を架橋する高い技術力が求められる。アートヴィレッヂでは技術承継のためのユニークな施策を実践している。


 □リアルな現場=このようにできている=竣工図を教材に施工図に最適な3次元モデル構築□


 BIMソフトの習得は「習うより慣れろ」の徹底したオン・ザ・ジョブ・トレーニング。ベテラン技術者も、先行してBIMソフトを習得した女性所員に質問し、オペレーション・レベルで、課題をその場で解決していた。

 若手所員は、渡された竣工図一式を読み取り、BIMソフトで3次元モデルを構築する。モデル構築の教材が設計図でなく、竣工図なのが重要なポイントだ。キーワードは「リアルな現場=このようにできている」。

 設計図は「このようにしたい」、施工図は「このように建てる」、竣工図は「このようにできている」。基本的に設計図をベースとする竣工図は、施工図ほどLODも細かくなく、所員が出向いていた「リアルな現場=このようにできている」経験が生かせるため、教材として最適だ。施工現場での経験が2次元の竣工図を読み取る際の指標となり、BIMソフトでの3次元モデル構築を後押しする。

 「BIMで施工図を描く態勢は整備したが、3次元モデルが主で、2次元図面が従ではない。双方は相関しており、BIMを運用する中で2次元図面を読み取るのは、2次元図面に潜在する3次元モデルを読み取る能力そのものだからだ」(アートヴィレッヂ代表取締役・原行雄氏)


 □BIM状況進展を契機として変革の波が及ぶ建設業の中に施工図事務所の職能を再設定する□


 著名なゼネコン、設計事務所のコンストラクション・マネジメント部門からアートヴィレッヂへ接触があったのを訪問時に知った。背景には、「設計と施工を架橋する」施工図事務所の職能自体をコンストラクション・マネジメントの業務プロセスの中にフロントローディングして、優位性を確保する意図があるのではないか。

 東京都が提唱して注目を集めているデザイン・アンド・ビルド方式。設計・施工の分離が原則の公共建築で、実施設計の一部または全てを施工者に前倒し移行し、品質、コスト、工期を最適化しようとする発注方式だ。

 組織設計事務所の一部が対抗策として掲げているIPD(※)。建築関係者が早期にプロジェクトチームを編成し、品質の高い建築を提供するために、建築主に対して提案する「早期施工者決定方式」だ。高度な専門性が要求される医療施設の建設では建築主の主導でコンストラクション・マネジメント方式を採用するケースが増えている。

 傍証的にも、BIM状況の進展をひとつの契機として建設業に変革の波が訪れている。

 ※IPD=Integrated Project Delivery

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)