BIMの課題と可能性・61/樋口一希/ホームビルダーのBIM運用・3

2015年4月16日 トップニュース

文字サイズ

 那覇市に本社を置き、地域ビルダーとして戸建て、マンションなど住宅を中心に商品企画、設計・施工、販売、不動産管理から修繕までを手掛ける環(たまき)ハウスグループ。「経営資源としてのBIM」の運用を通して現業の更なる向上を目指している。


 □最も成功したBIMを運用する住宅メーカーの戦略を参照して地域ビルダーの立ち位置確認□


 住宅メーカーへの取材アプローチに着手した。最も成功したBIMは住宅メーカーが運用しているに違いないからだ。1982年、『建築とコンピュータ』誌(旧建築知識刊)創刊に際して調査のため住宅メーカーを訪ねた。女性オペレータがタブレット上で間取りを入力すると(BIMソフトとの比較ではポンチ絵のようだが)画面には戸建て住宅の3次元パースが出現した。

 住宅設計システムは、汎用大型コンピュータ上のデータベースと連動しており、積算情報を基に建築現場まで搬入するパネル枚数も計算、建設現場の状況に則して何台のトラックが必要かとのロジスティックスも実現していた。環ハウスグループが目指す現業の高度化との関わりで、BIM運用のメリットの一側面である「標準化=データベース構築」について報告する。


 □住宅分野でのメリットが周知となった設備機器などの「標準化」をBIM運用で加速化する□


 沖縄の建築物はRC造が中心だ。米軍統治時代の要求仕様の名残であり、台風の通り道+高湿度+塩害があるため搬入コストがかかる鉄骨造・木造は不向きだからだ。

 戸建てやマンションなどの住宅建設では設備機器などを中心に『標準化』が進んでおり、メリットは周知のものだ。環ハウスグループでは、一品生産のユニークさを生かしながら、沖縄という地域特性、風土環境に則した設計施工ノウハウとBIMを連携させて『標準化』メリットの最大化に着手している。

 福井コンピュータアーキテクトでは、小さなBIM=3次元建築専用CAD「アーキトレンドシリーズ」で利用できる住宅建材・設備3次元データベース「バーチャルハウス・ドットネット」を運営しているが、環ハウスグループのようなGLOOBEユーザーも同データベースを利用できる環境を提供している。

 サイトにアクセスすると、「90社以上の建材メーカーが提供する10万点以上の建材データ」とあり、直近の4月2日現在、フクビ化学工業が壁面化粧パネルなど計17点を新規登録、「現在の建材データ登録数12万3444」とのアナウンスがあった。

 BIMによる建築情報のデジタル化は、建材・設備メーカーなどとの協働を通して更なる深化を見せている。


 □新たな課題としてBIMによる建築情報の標準化とデータベース構築へのチャレンジに着手□


 個々に異なる建築主のニーズを捉え、一品生産としての建築物を設計施工することとBIMによる標準化は、「バーチャルハウス・ドットネット」に見られる建材・設備メーカーの動向などとも相まって相反しない。BIMによる標準化はデータベース構築と結びつき、戸建て住宅やマンションを手掛ける地域ビルダーの位置付けをさらに強化する。

 実物件で意匠・構造・設備間のBIMによるデータ連携を行い、各種確認申請図面+実施設計図面の作成までを行う過程の中で、組織内に暗黙知として内在していた『経験・ノウハウ・標準(化)』が共通知として明らかとなった。それらは図面標記の統一化からBIMデータ連携の最適化、建築資材販売を行うグループ会社「TB」との情報共有のあり方、施工現場でのリアルな納まり仕様まで多岐にわたる。

 BIMによる標準化+データベース構築は、商品企画、設計・施工、販売、不動産管理から修繕までの全事業ドメインを貫き、『人』『物』『金』の見える化に貢献、最終的にはグループ全体での財務政策にまで直結する。「経営資源としてのBIM」をいかにして進化させるのか。環ハウスグループの新たなチャレンジを注目したい。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)