BIMの課題と可能性・62/樋口一希/藤岡郁建築設計事務所のBIM運用・1

2015年4月23日 トップニュース

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 建築工程を貫き、竣工後の施設管理、稼働建物のIoT(Internet of Things)化にまで広がりをみせるBIM。工程上流に位置する小規模な建築設計事務所での運用に限定してもメリットは顕在化し始めている。『仕事を創る』側面から藤岡郁建築設計事務所(横浜市都筑区)のBIM運用を報告する。


 □いかに仕事を創るかの課題解決のためデジタルでのプレゼンテーションに全力傾注□


 藤岡氏は大学卒業後、関西の大手ゼネコン、インテリア・デザイン事務所を経て、91年に事務所を開設した。独立系の小規模事務所では、創業期をいかに乗り切るのかが共通課題だ。

 建築設計事務所というビジネスモデルの特性上、マスメディアへの広告出稿はあり得ない。住宅プラン集の広告スペースに出稿しても費用対効果は期待薄だ。建築設計事務所を紹介するホームページもあるが、建築の素人=施主と専門家=建築設計事務所のマッチングは容易ではない。紹介や口コミで営業機会を得た施主に対してタイミングを逸せず、いかに有効な提案を行うのかの瞬発力が常に求められる。

 ゼネコンでの現場経験とインテリア・デザイン事務所での家具や照明器具などのデザインノウハウを活かすために何が必要かを模索する中で、3次元モデルでのプレゼンテーションの有効性に着目し、設計実務のデジタル化に向けてBIMソフト(Vectorworks:エーアンドエー製)の前身であるMiniCAD導入に踏み切った。


 □BIMの萌芽となったMiniCAD+STRATA+Photoshop=定番の組合せ プレゼンで提案力を最大化□


 Macintosh(PM7300)は中古自動車約1台分。敢えてフリーの2次元CADによる作図業務の下請けは行わず、デザイン事務所の知り合いから設計依頼を受けながらMiniCADの可能性を最大限に引き出すべく徹底的に研究した。

 Macintosh特有のインターフェイスや操作性に依拠したMiniCADは、優れた2次元CAD(Computer Assisted Drafting/Drawing)機能と共に、当初から3D CAD、簡易データベース、マクロ、ワークシートなどBIMソフトの萌芽といえる機能を持っていた。

 徹底追求したのは3D CADによる施主へのプレゼンテーション効果の最大化だった。MiniCADで作成した3次元モデルをSTRATAに取り込み、写真・画像編集ソフトのAdobe Photoshopで作ったリアルなテクスチャーで仕上げる定番作業を行った。

 最新版のレンダリング・エンジン「CINEMA 4D」搭載の※Renderwoksでは、実写と寸分違わない表現が実現、施主との打ち合わせにノートパソコンを持ち込み、精緻なレンダリングを施した3次元モデルでのプレゼンテーションを行っている。

 ※Renderwoks:Vectorworksに照明効果やテクスチャ効果など高精細なレンダリング機能を追加するプラグインソフト。


 □レンダリング機能に過度に依存せず設計者のスキルで実現する施主目線のプレゼン□


 ハードウエア性能が向上し、何昼夜もかけずに高度なレンダリングができる。照明器具メーカーのホームページから※IESファイルも入手でき、高度なシミュレーションも可能だ。一方で『絵としての表現』を際限なく追いかけ、あり得ない絵さえもできてしまう。重要なのはBIMソフトをブラックボックス化し、『高機能化+できる』に過度に依存せず、施主視線で現実感を表現する設計者のセンスとノウハウだ。

 「『仕事を創る』ための営業段階での3次元モデルは、確認申請から実施設計に至る2次元の各種設計図書作成に連動する。現業を可能な限りフロントローディングしても手戻りが発生しないので作図作業の重圧からも解放され、顧客へのプレゼンテーションと合意形成に集中できる」(藤岡郁氏)

 ※IES:Illuminating Engineering Societyの略。照明器具のカバーガラス、フード、レンズなどを通して空間に供される配光情報。遠藤照明、岩崎電気、パナソニックなどのホームページから入手できる。IES Computer Committee提唱。http://www.ies.org/

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)