BIMの課題と可能性・67/樋口一希/施主に気づきを与えるBIM・3

2015年5月28日 トップニュース

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 設計者として得意分野を強化し、いかに競争相手と差別化するか。「空創房、一級建築士事務所」(京都府宇治市)を主宰する畝啓氏は、BIMを最大限に活用して認定こども園の設立支援へと業務領域の伸延を進めている。


 □長年培ってきた社会福祉関連施設の設計ノウハウを基に認定こども園の設立支援にも特化□


 畝氏はキャリアをスタートした設計事務所で社会福祉法人関連施設の設計を担当。現在、それらノウハウを生かし、認定こども園の設立支援に奔走している。

 認定こども園とは、待機児童問題の解消を目的に設置が進められているもの。国からの補助金を得るためには、『建物及びその附属設備は、同一の敷地内又は隣接する敷地内に設けること(公道を挟む程度を含む)を前提とする』(※)など建築的な側面からも規定がある。

 本案件は滋賀県大津市での事例だが、地方自治体ごとに条例によって設置基準が定められるため、設計者には個別対応できる能力が求められる。法的に規定された設計与条件と関係者間の思いが複雑に入り組む中で、BIMによる「見える化」は利害調整に威力を発揮する。畝氏はBIMを最大限に活用し、設計者の職能を認定こども園設置に特化したコンサルタントへと伸延することに成功した。


 □隣地建物+行政+認定基準+施主の思い+園児の安全と快適さ=BIMで連立方程式を解く□


 14年6月に竣工したS造3階建て、100人の園児を収容する敷地面積約630平方メートル、建築面積約430平方メートルの認定こども園。社会福祉法人から依頼があった段階で補助金申請の手続きを支援、設置基準への合致を証明する配置図、平面図、室面積などをまとめる。測量図を入手し、現地調査を経て、補助金申請段階でBIMにより初期入力した情報に隣接建物など詳細情報を追加していく。その結果、2次元図面主体の従来の設計手法では対応できなかった(であろう)諸条件が早期に明らかとなった。

 隣地では大手ゼネコンがタワーマンションを建設中で、通過本数、乗降客ともに多い東海道本線の主要駅がある。確認申請の提出先、認定こども園の補助金担当と行政窓口も分かれている。施主である社会福祉法人の思い入れもあるし、何よりも優先して園児たちの日々の安全と快適さを確保しなければならない。

 一刻足りとも運行を止められないJR西日本との交渉は詳細を極めた。認定こども園の設置基準をクリアする設計上の配慮、工夫も多岐にわたった。それら全ての利害関係者との交渉に、BIMによる3次元モデルが威力を発揮した。従来であれば、交渉のたびに大量の2次元図面を出力し、変更ごとにスタイロフォーム模型も作っていたに違いない。BIM画面をキャプチャーして提示したり、ノートパソコンを持ち込み、3次元モデルを直接見せたりするなど、2次元図面を使用することはなかった。


 □施工現場支援で設計者本来の監理業務を高度化+施工モデル構築で改修設計対応も視野に□


 施工段階でもBIMは威力を発揮した。隣地との関係を詳細に確認でき、建設機械の行動許容域を明確にするなど施工計画に援用できる。3次元モデルで打ち合わせすることで、現場でのフロントローディングが可能となり、建設会社にも好評であった。BIMは設計者本来の職責である設計監理の高度化にも貢献する。

 BIMで「粗く」創った3次元モデルは施主、行政などへの見える化に威力を発揮する。設計の進捗とともに「密度」を上げていく3次元モデルは、図面の整合性を確保し、作業としての作図への負担を大幅に軽減する。「粗」から「密」へと成長するBIMモデルは、設計の射程距離を施工にまで伸延し、新たなビジネスチャンスを生みつつある。

 「設計事務所の職域を超えるのかもしれないが本案件でも施工図BIMモデルを作成した。施主の社会福祉法人では認定基準の変更などへの迅速対応、近い将来の改修も視野に入れている。施工図モデルを活用した改修設計にも積極的にチャレンジしていきたい」(畝氏)。

 ※出典=「幼保連携型認定こども園の認可基準について」(内閣府)

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)