BIMの課題と可能性・76/樋口一希/設計・施工部門間のデジタル連携を深化させるフジタの試み・2

2015年7月30日 トップニュース

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 設計と施工部門を架橋し、施工図作成という現業を担う施工図部門を中心に、かつての2次元CADでの部門間連携の知見も手がかりとしつつ、設計施工を旗印とする建設業としてのBIM運用を深化させているフジタの現況を報告する。


 □BIMによる設計モデルと施工(図)モデルの連携効果を上げるべくJ-BIM施工図CAD導入□


 建築主のニーズの高度化、経済効率性の追求などから工期短縮への要求は強い。設計部門が施工につなげるべく実施設計図の確定度を高めても、仕様変更は必ず施工(図)段階にも及ぶ。

 BIM運用の成功条件として知られているフロントローディング。生産性向上という目標において設計施工の優位性を活かすべく、設計部門でも施工部門とのBIM連携の機運が高まっている。そのような背景を受け、BIMソフト「GLOOBE」に引き続き、福井コンピュータアーキテクト製の「J-BIM施工図CAD」の導入に踏み切った。


 □建設業にとって最重要な生産拠点・現場でのBIM運用=3次元モデルからの施工図作成□


 恒常的な人手不足、急激な資材高騰などの厳しい環境下、受注するとすぐに施工現場からは施工図が必要だと施工図部門へ要請が相次ぐ。施工図部門では12年からBIMによる設計の3次元モデルを施工モデルへと転用するべく「J-BIM施工図CAD」の運用実験を開始した。

 「J-BIM施工図CAD」は躯体を構成する部材データを通り芯と面芯距離を設定して配置すると各種施工図面を作成する。加えてBIMソフト「GLOOBE」の設計(意匠)モデルからは躯体情報(柱、梁、壁、スラブ、基礎他)と開口情報(開口部)をIFC形式データで取り込み、躯体図を自動生成する。手拾いでは時間を要し、曖昧でもあったコンクリート数量も瞬時に把握できる。フジタでは現在、「J-BIM施工図CAD」のより一層の進化に向けてベンダーとの協働を続けている。


 □生産拠点・現場でのBIM運用の進展で明らかとなった3次元モデルによる「見える化」の効果□


 本連載48でも紹介した日本建設業連合会刊行の『施工BIMのスタイル』。副題に「施工段階における元請と専門工事会社の連携手引き」とあるように、建設業の生産拠点である施工現場でのBIM運用に徹底的に的を絞った内容となっており、業界関係者からも高い関心を集めている。

 同書の第3章「工事別の施工BIM」では、BIMの3次元モデルによる「見える化」効果を、「BIMを活用することで2次元検討より効果が期待できるBIM」として明確化し、〈109件の作業項目〉〈79件の専門工事業者とのBIM連携が必要となる作業項目〉として選び出し、具体例で解説している。その際に、効果測定の基準として採用されているのがQCDSEだ。

 QCDSEは、品質(Quality)、コスト(Cost)、工期(Delivery)、安全(Safety)、環境(Environment)の略で、建設業における生産現場において特に留意すべき管理、改善目的を明示するものとして用いられる。以下、同書を出典元としてQCDSEの具体例を紹介する。

 「4.杭・掘削・山留工事」では、2事例によってBIMの3次元モデルによる干渉チェック・施工シミュレーション・納まり確認の実際が概説されている。

 ◇乗り入れ構台と切梁の干渉チェック

 仮設計画図との関わりで干渉チェックの必要度を「QDS」で明示。地下の山留め壁を支える切梁は、建物のRC躯体や本体鉄骨と干渉せずに設置。乗り入れ構台は、構台を支える支保工と切梁との干渉不可。

 ◇敷地周辺の埋設インフラとの干渉チェック

 山留め計画図との関わりで干渉チェックの必要度を「QS」で明示。敷地外に周辺建物のインフラを支える洞道が埋設されている際、アースアンカーは洞道との干渉は不可。アースアンカーの深さと角度調整にBIMが有効。

 なお、同書の巻末には、第3章で紹介された事例のQCDSEが星取表で網羅されている。

 次回は、フジタがBIM運用によって指向するQCDSEの現況などについて報告する。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)