BIMの課題と可能性・79/樋口一希/長谷工コーポの「究極の」BIM運用・1

2015年8月27日 トップニュース

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 マンションの用地取得から企画・設計・施工、分譲販売・賃貸マンションの管理・運営、リフォーム、大規模修繕、建て替えまでを総合的に手掛ける長谷工グループ。「つくってきたからわかるんだ」「マンションのことなら長谷工」の中枢を担う長谷工コーポレーションの「究極の」BIM運用の実際を報告する。


 □「建築とコンピュータ」の黎明期から建築情報のデジタル化のメリットを徹底的に追求□


 1980年代初頭、長谷工コーポレーションでは、航空機設計用のCADに出自を持つ「CADAM」(Computer-graphics Augmented Design And Manufacturing)を導入し、建築情報のデジタル化への挑戦を果敢に進めていた。今でもCADAMが並ぶ壮観さを鮮明に覚えている。

 連載開始時から長谷工を訪問するタイミングを見計らっていた。満を持しての取材であり、ここに至る筋立ての中に、BIMを取り巻く課題と可能性の現在が潜在している。長谷工の取材、報告を通して、それら現在を「見える化」する。

 建築物は多くの場合、一品生産であり、製造業のようにオリジナル・モデルのデジタル情報を基に、マス・プロダクション化できない。一方で、建築(業)は、標準化、モジュール化された数多くの部材・部品を組み合わせるアセンブリ産業でもある。この微妙なバランスの狭間にBIMの現在はある。

 BIMに関する情報交換を行っているFacebookで、著名な建築家から苦言が呈された。「BIMを喧伝しているが、誰もが住宅メーカーになればよいというものではない」。恣意的な強調があると思うが、本稿ではジャーナルとして、長谷工の事例を基にBIM運用の現在の「解」を提示する。


 □BIMでのマス・プロダクション化の優位性をより深化させて受注生産に限りなく近づける□


 長谷工は、マンションの設計施工を100%近く(98%)自社配下で行うことで、BIMの抱える微妙なバランスを突き抜けたBIM運用=マス・プロダクション化を実現している。同時に、多様化し、常に変容する顧客ニーズを先取り=フロントローディングしたビルド・ツー・オーダー+マス・カスタマイゼーション(Build-to-Order & Mass Customization)とも言える手法とも組み合わせている。

 BIMは対象建築物を構成する各種のオブジェクト(部材・部品)の集合体=データベースだ。データベースを常にリフレッシュすることで、受注生産に限りなく近いビルド・ツー・オーダー+マス・カスタマイゼーションを可能にする。

 BIMによるマス・プロダクション化の優位性にのみ留まるのではなく、それらを基に、「建築物は多くの場合、一品生産であるとのユニークさ」に限りなく近づける。建築(業)の中で、最も顧客のそばにいる。これこそが長谷工の「究極の」BIM運用の実際だ。


 □設計施工の対象建築物から標準化できる構成要素をデジタル化することで基本モデル構築□


 究極とも言える長谷工のBIM運用は、「ATOM(Automatic Tool for Object Modeler)」にその典型を見ることができる。建築物(マンション)を構成する要素とは何であり、どの領域を、どのような範囲でデジタル化すればよいのか。長年にわたる建築情報のデジタル化の経験と知見を基に開発された。

 表計算ソフトのExcel上にある模式化された平面図に間口、奥行、立面図からは階高、セットバック情報を入力する。各通り芯ごとに必要な構成部材が自動設定され、階段、EV、飾り柱などの数量、位置情報を入力すると、BIMソフト「Revit」(オートデスク社製)上に柱、梁、開口部などが配置された『基本モデル』として分単位の時間で構築される。

 さらに、驚くのは、この段階から、誤差±2~3%の概算システムと連動している点だ。

 長谷工のBIM運用をマンション専業メーカーの特異例として捉えると、BIMの『I』がデジタル化されたInformationであり、建築(業)をパラダイム・シフトへと導くという本質を見誤る。次回は、長谷工の「究極の」BIM運用をさらに詳細に掘り下げる。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)