BIMの課題と可能性・84/樋口一希/積水ハウスの先駆的BIM・3

2015年10月8日 トップニュース

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 住宅メーカーとしての業態に特化した積水ハウスのBIM「SIDECS-II」。設計から生産、施工、検査・引き渡し、アフター・メンテナンスまで連続的に運用される現況について報告する。


 □設計段階で構築された「家モデル」を工場での生産システムに連結+ロジスティクスも最適化□


 SIDECS-IIでは、顧客対応時に、営業担当+設計者が間取り図を描くことで『邸別情報』+『基本部材』の二つのデータベースと連動して3次元の「家モデル」を構築する。

 設計者はSIDECS-IIの〔実施設計モード〕を用いて「家モデル」を実施設計レベルまで格上げし、業務システムの入力情報とも連携・一元化した状態でそれ以降の工程に受け渡す。

 設計段階で構築された「家モデル」から『部材情報』を工場の生産システムに一気に展開することで、再入力手間の削減や人員配置の最適化を行い、工場への部材積算工数を年間で最大75%減少させた。

 さらにサプライチェーン・マネジメント・システムによって、発注情報や工期情報を〔購入する+作る+運ぶ+建てる〕の工程間で共有し、『邸別情報』『部材情報』に基づく積載効率の高い物流計画の立案で大きな関連経費削減に成功した。

 顧客対応の質的向上にも注力している。施工段階では、現場写真や工程情報、変更内容などをインターネット経由で顧客に提供、打ち合わせの事前連絡、スケジュール管理にも取り組んでいる。


 □インターネットで顧客とインタラクティブに情報交換するとともに住宅履歴情報なども共有□


 以前から「住宅産業はクレーム産業」ともいわれてきた。豪雨ともなれば、雨漏りがなくとも、営業担当は不安に駆られた顧客対応に追われた。積水ハウスでは、1400人のアフターサービス担当者を配置するとともに、顧客とのコミュニケーションツールとしてインターネットを活用する「Netオーナーズクラブきずな」を運営している。顧客ごとの専用領域には、住まいのしおりや住宅設備のマニュアル、『邸別情報』と連動した点検情報や「いえろぐ(※)」(住宅履歴情報)なども登録してある。保守点検時に威力を発揮するのが必要部品を短時間で特定できる「メンテナンス部品検索発注システム」だ。

 『邸別情報』と連動のいえろぐ(住宅履歴情報)を用いることで「メンテナンス計画書」や「リフォーム提案書」も作成でき、中長期にわたる顧客対応と受注機会拡大にも貢献している。

 ※いえろぐ=09年開始の「長期優良住宅認定制度」で義務付けられた「維持管理情報」と主要な「建築情報」を蓄積した住宅履歴情報更新台帳。


 □住宅を「業」とするメーカーとしてIT技術の活用で近未来を展望するチャレンジを継続□


 SIDECS-IIと各種ITシステムを連携し、デジタル情報の徹底活用を推進するために、情報システム関連の部署を統合し、設けられたIT業務部主導で導入が進んだiPad。『邸別情報』データベースとも連動した活用が進んでいる。地域を特定、検索すると、顧客ニーズが集中するプラン・デザインから価格帯の傾向までが閲覧できる。顧客訪問時には間取りやCGパースで打ち合わせし、合意形成の確度を上げる。

 『邸別情報』データベースに蓄積されたデジタル情報は、貴重な情報資産=ビッグデータとしての側面も持つ。IT技術を媒介させることで、優れた流通性、可用性を持つデジタル情報の優位性を最大限に引き出せるに違いない。

 急速な少子高齢化や人口減少が想定され、空き家増加が喫緊の課題となる中、住宅を「業」とする専業メーカーとしてIT技術を徹底活用することで、BIM=HIM(House Information Modeling + House Information Management)をHLCM(Human Life Cycle Management)へといかに拡張するかの挑戦が続いている。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)