BIMの課題と可能性・89/樋口一希/YKKAPファサードの先進事例・1

2015年11月12日 トップニュース

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 チャンギ国際空港のBIMガイドライン策定に続き、「シンガポール」をキーワードとして、YKK AP ファサード社(YKK AP FACADE PTE.LTD.)におけるBIMの現在を報告する。


 □高層ビル・都市居住協議会から環境性能が評価された「CapitaGreen」のセミダブルスキン□


 建築家・伊東豊雄氏の基本設計を基に、竹中工務店の設計・施工で竣工した高さ242メートルの超高層オフィスビル「CapitaGreen」。上空に向かって伸長する植物のようなデザインが特徴で、外壁の55%が緑化されている。米国の高層ビル・都市居住協議会(CTBUH※)では、その造形美と環境性能に高い評価を与え、15年度アワード(CTBUH Best Tall Building Awards)=アジア・オーストラリア地域の最優秀作品賞を贈った。

 環境配慮技術として注目が集まっているセミダブルスキン=Double-skin facade(green wall)の設計・製造・施工を担ったのがYKK AP ファサード社であり、本格的なBIM導入としては初のプロジェクトとなっている。


 □BIM対応が必須の海外での建材メーカーの事業展開を参考に今後の国内のBIM状況も展望□


 連載41~43回「東芝エレベータのBIM運用」に続き、筆者が建材メーカーのBIM運用を探るべく事前調査を始めたのがYKK AP。BIM対応が必須の海外プロジェクトでは何が起こっているのか。「YKK AP FACADEブランド」を掲げ、グローバル・オペレーションを担い、ファサード事業を展開するYKK AP ファサード社に的を絞った。

 BIMなどデジタル技術の進展を背景に、海外からは個性的で不思議な造形の巨大建築物の話題が寄せられる。中でもアジア地域、特にシンガポールでは実験的ともいえる建築物の竣工が続いている。YKK AP ファサード社の紹介サイトに写真があるのが、最新観光スポットとして話題の、壮大なスケールの植物園「Gardens by the Bay」。ビジター・センター北側の二つのドーム「フラワー・ドーム」「クラウド・フォレスト」の威容さは写真からでも伝わってくる。

 超高層・高難度の建築物では、ファサードを構成するカーテンウオールにも高い環境技術や先端的な設計・製造・施工技術が求められる。YKK AP ファサード社では、シンガポール本部を中心に、香港、ベトナムの各拠点で事業を展開している。


 □将来の人材育成も視野に入れBIMベンダーとベトナムの大学が共催するイベントにも参加□


 急速に経済成長が続くアジア。シンガポールのように高度に発達した地域もあれば、ベトナムのように今後の発展が見込まれる地域もある。ファサード事業では、世界各国の顧客からの要望、アジアを中心とした各国事情に合わせた設計、製造、施工、調達による高度なエンジニアリングサポートやオペレーションが求められる。現地貢献と将来のBIM技術者養成への期待を込めて、同社はベトナムの大学生を対象に行われたコンペティション「ArchiCAD BIM Competition 2015」に協賛し、審査員として参加した。

 「ArchiCAD BIM Competition 2015」は、グラフィソフトジャパンとホーチミン市建築大学、ハノイ建築大学が共催したイベント。選抜された60名の学生に対して2週間にわたってBIMソフトの研修が行われ、3Dモデルやアニメーションを用いた英語でのプレゼンテーションで幕を閉じた。

 ベトナムの現地スタッフからは、シンガポールや香港におけるファサード施工物件の説明を交え企業紹介も行った。協賛企業賞として、1位・2位のチームにはYKK AP ファサード ベトナム社でのインターンシップも提供した。

 ゼネコン、設計事務所もアジアへの進出を積極化させている。その際には、国内のBIMの後進性が非関税障壁とならないよう、同社に見られるような人材育成までも視野に入れたきめ細かな施策が求められている。

 ※高層ビル・都市居住協議会=CTBUH(Council on Tall Buildings and Urban Habitat)。高層ビルの計画、設計、建設、運営に関する国際NPO。http://www.ctbuh.org/

 (毎週木曜日掲載)〈アーキネットジャパン事務局〉