BIMの課題と可能性・90/樋口一希/YKKAPファサードの先進事例・2

2015年11月19日 トップニュース

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 シンガポール本部を中心に香港、ベトナムの拠点で事業展開しているYKKAPファサード社(シンガポール)。実験的な建築のメッカとなりつつあるシンガポールでの活動の実際を報告する。


 □巨大な無柱空間の実現のために培ってきた先駆的な設計・製造・施工技術を最大限に駆使□


 観光スポットとして人気の植物園「Gardens By The Bay Flower Dome & Cloud Forest」。シンガポール政府が掲げる「シティ・イン・ザ・ガーデン」構想に基づき開発された広大な庭園の一角に位置している。06年1月、熱帯植物園の国際コンペが開催され、最優秀賞を受賞したグラント・アソシエイツ+ウィルキンソン・エア(Grant Associates+Wilkinson eyre)がマスタープランづくりを担当した。

 YKK AP ファサード社のサイトに掲載されている写真からも、その威容が分かるのが二つのドーム「フラワー・ドーム」「クラウド・フォレスト」だ。

 「フラワー・ドーム」は、地中海沿岸や亜乾燥・亜熱帯地域に生息する植物を展示するため常時、23~25度に冷房されており、「クラウド・フォレスト」は、高さ35メートルの人口滝を囲むようにして標高2000メートルに生息する植物の生態系を再現している。YKK AP ファサード社では長年にわたり培ってきた先駆的な設計・製造・施工技術を駆使して、巨大な無柱空間を有する高難度の建築物の実現に貢献した。


 □複雑な3次元局面を平板ガラスのみで実現することで高い施工性・メンテナンス性を確保□


 それぞれ約1万6000平方メートルの面積を有する巨大な無柱空間を実現するため、最も構造的に安定した形態として二枚貝を擬したシェル構造が採用された。

 YKK AP ファサード社は、シェル構造によるドームの3次元形状を解析し、ガラスおよびアルミフレームのデザインを採用することで、平板ガラスのみで特徴的な曲線を描く大空間を創り出すことに成功した。ドームのガラス領域を構築する3次元曲面カーテンウオールは、1000パターンを超す形状の約6000枚に及ぶガラスにより構成されている。

 このように、それ自体が単純な形態である平板ガラスのみを使用する手法の開発により、合理的で、しかも扱いやすいサイズの反復性がある割り付け施工とすることができ、製作性、施工性、メンテナンス性の向上を可能にしている。また、複層ガラスの中間層に支持金物を隠すことで、ガラスとシールのみによるスムースな外観を実現している。


 □本格的なBIM導入への布石ともなった3次元モデルでのジオメトリ(視点座標系)処理□


 複雑な3次元曲面を単純な形態の四角形からなる平板ガラスのみで覆い尽くすには、当初、形態のバリエーションが膨大、多岐にわたるリスクが想定された。

 BIMソフト導入以前の案件であったため、AutoCAD(オートデスク社)の3次元機能を用いたジオメトリ検証によって最適解を見出した。そのためBIMによる建設会社との3次元モデルによる協働は行っていないが、ここでの試行錯誤が本格的なBIM導入時の最も重要な布石となっている。

 (毎週木曜日掲載)〈アーキネットジャパン事務局〉