BIMの課題と可能性・98/樋口一希/前田建設の最新BIM・2

2016年1月21日 トップニュース

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 BIMのオブジェクトとして「電子付箋」を採用したらどうか。ひらめき(inspire)を大切に醸成し、施設履歴管理システム「ichroa(アイクロア)」※の改善を続ける前田建設。BIM+ICTの進化系の「今」を報告する。

 ※ichroa(アイクロア)=inspire×chronicle×architectureの略で前田建設の登録商標。


 □「業としての建築」のウイングを施設管理へ拡張するのに必須の情報マネジメント能力□


 建築主にとっては、建物が竣工し、稼働してからが本番だ。設計施工の職能をFM(ファシリティーマネジメント)に拡げ、建築主に応える。ミッションは、BIM+ICTを活用した情報マネジメント能力の強化と脱請負によるビジネスチャンスの創出である。

 建設会社としてのウイングを拡張するために採用したマネジメント手法がTPM(Total Productive Maintenance)だ。設計・施工部門から建築主寄りへと適度な距離を保ち、新たな職能を担うセクション(TPM推進グループ)を立ち上げ、「ichroa」の独自開発と運用・メンテナンスを行っている。


 □経時的管理と関係者間の連携を図る情報マネジメント・システムへ進化した「ichroa」□


 ICTを徹底活用することで、施設管理のあり方を情報マネジメント・システムへと進化させた「ichroa」は、11年4月にリリースされた。

 システム名に託したchronicleが「編年記」と訳されるように、施設管理業務は長期にわたり、関わる関係者も多く、組織間を横断する連携も求められる。「ichroa」は、複数の異なるフェーズをインターネットとクラウド・システムで統合し、施設管理に特化したデータベース+コミュニケーション・システムとなっている。

 〈1〉施設管理担当者〈2〉建設会社〈3〉ビル管理会社〈4〉施設利用者ごとに、事前に利用できる機能・権限(登録・閲覧・承認)を設定、多拠点からID・パスワードでサーバーにアクセスし、「ichroa」を運用する=図1。


 □BIMのオブジェクトとして「電子付箋」を採用することで各種情報の見える化効果を向上□


 3次元建物モデルの建築の非専門家(施設利用者)への見える化効果に着目した前田建設は、15年8月、「ichroa」の改良版「BIMと連携した施設管理システム」を公開した。

 デモ画面を観た時、マウス移動に追随して3次元モデル上に現れる「電子付箋」=図2=に気付いた。アイコンをクリックすると、当該設備の取扱説明書などのテキスト情報や関連文書が閲覧できる。表計算プログラムに準ずる仕様で、使いやすいとはいえなかった他の多くの施設管理システムを凌駕している。

 「運用実績の積み重ねで施設管理に関するビッグデータ運用やIoT(Internet of Things)との連携も視野に入る。現業の効率化とともに『予防保全』計画の提案など新たなビジネスチャンスも開拓していく」(建築技術部TPM推進グループ長・曽根巨充氏)。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)