BIMの課題と可能性・100/樋口一希/前田建設の最新BIM・4

2016年2月4日 トップニュース

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 前田建設と地元の建設会社や職人とのコラボレーションによって14年7月に竣工した大規模木造建築物「住田町新庁舎」ついて報告する。


 □地産地消の木材で準耐火構造+耐震基準値I類(1.5)を実現した大規模木造建築物が完成□


 住田町は岩手県南東部の気仙郡にあり、人口は約6000人、主な産業は農林業である。新庁舎は、森林・林業日本一を目指す住田町のシンボルとして計画され、地産地消による町内産の木材を用いた木造建築物とすることが求められた。

 新庁舎は延べ床面積約2900平方メートルの2階建て。スパン21.8メートルのレンズ型トラス梁を、外周に1.8メートル間隔で設けた柱で支持する構造となっている。水平応力に耐えるため設けたラチス壁は、採光条件(透過光)を満たしながら純木造で通常の耐震等級の1.5倍の耐力を確保する。

 躯体の柱や梁には、地元産のスギ材とカラマツ材を原材料とする、三陸木材高次加工協同組合などで生産された構造用集成材を使用、燃え代設計による準耐火構造としている。これらの条件を満たすことで、新庁舎は、災害時には後方支援も担う防災拠点として機能する。


 □BIMによるデジタルモックアップ作成を通して木造建築物とBIMとの親和性の高さを認識□


 前田建設では、計画当初から戦略的に、大規模木造建築物においてBIMを援用する際の要諦を見定めていた。

 「地産地消の木材を用いた木のショールーム」実現のための内装デザインは、天井を省き、構造梁の美しさとともに、関連設備も露出する斬新なもの。建築の専門家でも2次元図面では詳細を把握できない。BIMによる3次元モデルは、完成後のイメージを建築主に正確に伝え、議会関係者や町民間の合意形成の質を高め、時間短縮に威力を発揮した。

 異業種特定建設共同企業体を形成する地元の建設会社、設計事務所、木材加工業者など複数組織間のコラボレーションのためにもBIMによるデジタル連携の効果は絶大であった。施工現場にもBIMを持ち込み、工務担当や工事監理担当との協議を繰り返した。

 木軸全体のデジタルモックアップを創ることで、木造建築物特有の「仕口」の解析や接合部の事前確認にBIMが最適との気付きもあり、それら3次元モデルは木材ファブリケーターと共有された。デジタルモックアップは、火災時の避難シミュレーションにも効果を発揮した。


 □「住田町新庁舎」で集約した知見とノウハウを基に大規模木造建築物とのBIM連携を追求□


 伝統的な木造建築物とBIMとの高い親和性に新たな可能性とメリットを見出した前田建設は、住田町新庁舎で集約した知見とノウハウを用いて立て続けに同様のプロジェクトを進めている。

 17年5月に竣工引き渡し予定の桐朋学園音楽部門仙川新キャンパス建設計画は、「和の建築」を標榜する建築家の隈研吾氏による基本設計とともに、住田町新庁舎プロジェクトで協働した構造設計事務所や木材加工業者なども参加し、すでに本体工事に着手している。

 17年暮れに全体竣工予定の釜石唐丹小中学校作業所では、乾久美子建築設計事務所との間で、ECI(Early Contract Involvement:施工者早期参加)方式での協働が14年11月の設計技術協力業務委託契約時からスタートしている。

 大規模建築物への木構造採用の背景には、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(10年施行)、「建築基準法」の改正(15年施行)など政府の進める国内産木材の利用促進施策がある。耐震耐火性能にも優れた大規模木造建築物とのBIM連携を追求する前田建設の今後に注目していきたい。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)