BIMの課題と可能性・102/樋口一希/日本設計のIntegrated BIM・2

2016年2月25日 トップニュース

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 BIM協働を通して新たなワークフロー構築へと進展する可能性を持つ日本設計の「Integrated BIM」。本稿15年11月5日の「米国のBIM事情」で報告したIFoA(Integrated Form of Agreement)の成立背景も概観し、組織設計事務所の目指すべき立ち位置を探る。


 □MITによる生産管理手法を「業としての建築」へと適応するリーン・コンストラクション□


 米国のBIM関係者が熱く語る「リーン・コンストラクション(LS:Lean Construction)」。「Integrated BIM」の進化のため日本設計も情報収集、研究に着手したLSについて報告する。

 LSは、「業としての建築」の生産プロセスの無駄を徹底的に排除しようとする思想で、1980年代にマサチューセッツ工科大学(MIT)が日本の自動車産業の(主にトヨタの)生産方式を研究し、その成果を体系化、一般化した生産管理手法=リーン生産方式(Lean Manufacturing:Lean Product System:LPS)に依拠している。

 海外でLS導入が始まったのは1990年代だ。多くの建築物が一品生産の「業としての建築」では、大量生産が前提の製造業のためのリーン生産方式をそのまま導入できない。

 一方で、建築にも、トヨタ生産方式の「カイゼン」と「ジャスト・イン・タイム」が適用できる領域があり、その際に有効なのがBIMを中核とするデジタル・テクノロジーだ。

 リーン(Lean)は、「贅肉のない」「引き締まった」などの意味を持つ。LSの「現在」を知るためには1997年設立のNPO法人、Lean Construction Institute(http://leanconstruction.org/)が詳しい。


 □「Integrated BIM」と強い親和性を持ち「業としての建築」の生産プロセス革新を目指すLS□


 「米国のBIM事情」。建築主(オーナー)がプロジェクト立ち上げに際して設計事務所、ゼネコン、サブコンを糾合し、締結するIFoA=4者間契約の底流にあるのがLSだ。関係組織は、施工現場の「大部屋(oobeya)」に集合し、設計・施工のBIMモデル構築を混在するかのように、同時並行的に進める。その際のキー・テクノロジーが組織や工程の壁もやすやすと超えていく「デジタル=BIM」であり、大部屋に掲げられていたスローガンは、正にトヨタ自動車の「カイゼン」であった。BIMによる3次元モデルと『I』=Information=情報を統合した新たなワークフローへの転換を目指す日本設計の「Integrated BIM」は、「業としての建築」の生産プロセスの革新を目指すLSと強い親和性を持っている。

 Lean Construction Instituteのサイトにある「Goals=Increase owner and construction supply chain satisfaction with design and construction delivery.」の文脈に「Integrated BIM」を上書きしてみると、組織設計事務所が果たしうる、新たな役割が透かし絵のように浮かび上がってくる。


 □「3DモデルのLOD」と「情報のLOD」との統合に潜在するワークフロー革新への可能性□


 「Integrated BIM」では「MEP design utilizing ”Information”」と明示しているように、3次元の建物モデルと同列、あるいはそれ以上に、BIMの『I』=Information=情報を最重要視する。

 空調設備の機能・性能は、基本設計段階の建物=当該スペースの方向+開口部サイズ+適応ゾーニングなどに規定されるが、施工間近までメーカー・型番などは決定しない(できない)。「Integrated BIM」では、基本設計段階の空調設備の3次元モデルは低位のLODで作成し、機能・性能などの『I』=Information=「情報のLOD」は可能な限り高次なものとする。3次元モデルと『I』=Information=情報が紐付け、統合されているため、工程進捗に従い、3次元モデルのLODを高次なものに置き換えれば良い。

 「Integrated BIM」は、『I』=Information=情報のフロントローディングと、設計の射程距離の施工から施設管理(FM)への伸延を通じて、現業に内在する課題を解決し、ワークフローの革新へと向けて一歩を踏み出した。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)