BIMの課題と可能性・103/樋口一希/日本設計のIntegrated BIM・3

2016年3月3日 トップニュース

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 米国のカンファレンス「Autodesk University Las Vegas 2015」で注目を集めた日本設計の「Dynamoによる設備設計の変革」への取り組みを報告する。


 □BIMの『I』=Informationをキーに設備機器(情報)と部屋情報(スペース)を紐付けて運用□


 日本設計の「Integrated BIM」=設備BIMは、BIMの『I』=Information=情報を最重要視する。設計初期においては、設備機器の3次元モデル構築は最小限(低位のLOD)にとどめ、設備情報(室諸元・部材・機器・技術計算)といった従来散在していた『I』=Information=情報を一元的に管理し、可能な限り網羅(高次の情報のLOD)するとのルールだ。

 このルールに則(のっと)り、『I』=Information=設備機器(情報)と部屋情報(スペース)を紐(ひも)付けることで、設計段階で、対象設備機器が影響を及ぼすスペースを色分けし、FM段階で、対象設備機器番号を用いて、機器故障の影響範囲を色分け視認できる。

 さらに、設計プロセスが進捗(しんちょく)し、より高次のLODの設備機器の3次元モデルが必要となった際には、紐付けを手がかりに低位のLODの3次元モデルと入れ替えれば良い。日本設計では、これら設備BIM運用の知見とノウハウを、より一層、高度化するためDynamo(for Autodesk Revit)の採用に踏み切った。


 □Dynamoで設備機器(情報)と部屋情報(スペース)を橋渡し数量計算や形態決定に援用□


 Dynamoは、BIMソフト「Revit」(オートデスク社製)のアドインツールで、コンピューテーショナル・デザインのためのビジュアル・プログラミングを可能とする。設備BIMでのDynamo運用では、前述したルールに則り紐付けされている設備機器(情報)と部屋情報(スペース)間の橋渡しを可能にする。

 図「Dynamoを用いた設備設計の自動化」を参照すれば分かるように、ある特定の部屋(スペース)の設備機器稼働時に必要な風量や冷暖房負荷をベースに、Dynamoの橋渡し機能を用いて「給排気機器風量集計」「ガラリ風量集計」「冷暖房負荷計算」などと接続、自動照合して、条件に合致したファミリー=設備機器の選定を自動化する。

 これらのビジュアル・プログラミングのベースとなるのが、機能や目的ごとに用意されている「ノード」だ。設備機器(情報)と部屋情報(スペース)を、必要とする機能や目的に則り紐付けることで、複雑なデータ処理を自動化したり、ファミリー=設備機器の形状を制御したりする。


 □工程の自動化ではなく繰り返し可能なシミュレーションによって設計の最適解を認識する□


 メディアでも目にする機会の増えたコンピューテーショナル・デザイン。新国立競技場のデザイン案を見た非専門家=建築の素人は、建築家とはコンピュータで「不思議な形(建物)」を創ると風聞し、コンピュータが自動的にデザイン・設計してくれると誤解する向きもある。コンピューテーショナル・デザインとは、複雑な3次元曲面を多用する航空機や自動車などのデザイン・設計にコンピュータを援用するもので、建築分野でもDynamoとともに、「Rhinoceros(ライノセラス)」+プラグインソフト「Grasshopper(グラスホッパー)」などが普及しつつある。

 前述したDynamoでも、プロセスが自動化されているだけのように見えるが、コンピューテーショナル・デザインとは、さまざまに条件を変えながら、シミュレーションを繰り返し、デザイン・設計における最適解を見つける手法だ。重要なのは、その最適解を最適であると認識できるのは、人の側だということだ。

 日本設計では、コンピューテーショナル・デザインのツールの運用マニュアルを整備し、教育を始めた。設計者に「建築とコンピュータ」の最前線を体感してもらうとともに、それらツールの運用を通して、デジタルとの関わりで設計プロセスを見える化し、再定義するためだ。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)