BIMの課題と可能性・105/樋口一希/シンガポールからの最新情報

2016年3月17日 トップニュース

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 BIM運用を国家的規模で進めるシンガポールの直近の動きについて緊急報告する。


 □15年から一定規模の建築物の電子申請が義務付けられたBIM先進国から届いた最新情報□


 「YKKAPファサードの先進事例3」(15年11月26日)で報告したように、シンガポールでは15年から延べ5000平方メートル超の建築物の電子申請が義務付けられた。

 施策推進に向けた支援策も充実している。BCA(Building and Construction Authority:シンガポール政府建築建設局)の要求仕様に則り、BIM導入に関わる項目と進捗(しんちょく)+効果などを明記した報告書「BIM progress report」を提出、受理されると、1社単位でBIM導入のソフト・ハード購入費、教育費、人件費など最大半額(上限あり)までが補助される。

 建築家・伊東豊雄氏の基本設計、竹中工務店の設計施工で竣工した高さ242メートルの超高層オフィスビル「Capita Green」の外装を担当し、BCAからの補助金を受けたYKKAPファサード社(シンガポール)。その後も交流を続ける中で、新たな情報提供を受けた。


 □「業としての建築」のデジタル化とBIMの本質を見事に表現したBIM Studioの看板のコピー□ 


 取材先への情報収集などで重宝しているFacebook。YKKAPファサード社の担当者が投稿してくれた1枚の写真に釘(くぎ)付けとなった。そこには、Centre For Lean & Vertural Construction(BIM Studio)Build Twice,Frist Virtual then Real・Innovate・Integrate・Transformと明記されていた。

 「日本設計のIntegrated BIM 3」(16年2月25日)でも報告した、建築生産の無駄を徹底的に排除しようとするリーン・コンストラクション(Lean Construction)とバーチャル・コンストラクション(Vertural Construction)が並列し、続いて「二度、建設する:最初は仮想的に、そして実体的に」と標記されている。『革新的に』『統合的に』『(価値)転換的に』と合わせて、「業としての建築」のデジタル化と、それを可能にするBIMの本質を見事に言い切っている。このコピーが明記された看板が掲げられているBIM StudioがあるのがBCA Academy※だ。

 BCA Academyは、BCA運営の研修・教育機関で、建築技術者の資格取得に向けた育成コース、実務に従事する技術者向けのBIMマネジャー養成コース、意匠・構造・設備などのBIMソフトの訓練コースなどが設置されている。BIM Studioは、BIMに特化した訓練施設として15年12月にオープンした。

 ※BCA Academy(https://www.bcaa.edu.sg/)


 □「バーチャル・シンガポール」で国土を丸ごとデジタル空間上に3次元モデルとして構築□


 

 シンガポールでは、18年の完成を目指し、国土全体をデジタル空間上に3次元モデルとして構築する「バーチャル・シンガポール(Virtual Singapore)」という壮大なプロジェクトが進行している。国家研究財団(NRF)が中心となり、シンガポール土地庁(SLA)と情報通信開発庁(IDA)とが協働で開発しているもので、予算規模は7300万シンガポールドル(約60億円)。概要はYouTubeのプレゼンテーション・ビデオ※で確認できる。

 建物などの3次元モデルには、当然のように属性情報が付加されているので、例えば当該建物の窓を選択すると、図にあるように、住所番地とともに、開口部分の換気方法、日照時間、材質までもが表示される。建物新築時の周辺環境の調査から、防災シミュレーション、スマホなどのデバイスと連動した商業施設や観光案内までさまざまな用途が思い描ける。

 翻って、この国では、BIMモデル共用のコンソーシアムが設立されたが、完成は5年後とのこと。ドッグイヤーはさらに加速し、もう待ってはくれない。次回からは、新年度を迎えるに際して、継続して追跡している鹿島の「Global BIMの深化形」について報告する。

 ※https://www.youtube.com/watch?v=wMwhFwunBq8&sns=fb

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)