BIMの課題と可能性・108/樋口一希/鹿島のGlobal BIMの深化形・3

2016年4月7日 トップニュース

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 建設業にとって最も重要な生産拠点=施工現場での鹿島のBIM運用の現在と「近未来」へ向けた挑戦を報告する。


 □デジタル運用のメリットを出しにくい建設業の特異性を革新して生産性の向上を実現する□


 大量生産が前提の製造業と、多くの建物が一品生産の建設業では、デジタル運用の実態が決定的に異なる。製造業では、オリジナル(原初)のモデルを基に大量コピーするが、建設業では、オリジナルなモデル自体を設計・施工から竣工後の施設管理まで長期間にわたり、展開、運用し続ける。

 製造業の工場と建設業の生産拠点である施工現場を比較しても、建設業のユニークさは際立っている。製造業の優等生としてカイゼンとともに話題に上るトヨタ自動車。製造ラインと製造物(自動車)との関係は、現在もフォード社の創生時代と変わっていない。

 一方、建設業では、製造ライン(施工現場)は建物と一対一で、マニュファクチュアであり、テンポラリー(一時的)であるといえる。鹿島が大量生産だからこそ産まれるデジタル運用のメリットを建設業の特異性にいかにして適合させているのかを検証する。


 □建設業の施工現場特有の課題を技術革新で解決することで世界全体で740現場へBIM導入□


 前稿で論考したように、竣工後も長期間、展開、運用し続けるBIM統合モデル『建築+設備』は、現場での最終的なBIM施工図としてBIMママや内外の協力組織によって再構成、作成される。鹿島では、テンポラリー(一時的)で、後には撤去される製造ライン(施工現場)においても、Doalltech(グラフィソフト・コリア:韓国)と共同開発したBIMソフト「ArchiCAD」のアドオン「BIMによる施工計画システム」を用いて課題を解決している。

 撤去されるためBIM運用の盲点になっている仮設資材や重機。多くは標準化、規格化されているためBIMモデル化して繰り返し運用可能だが、工程の進ちょくに合わせて随時、建物側のBIMモデルと3次元的に整合させる必要がある。その際に威力を発揮するのが「BIMによる施工計画システム」で、あらかじめ着工前に、竣工に至るまでの全過程をシミュレーションすることで、旧来の施工方法にまつわるさまざまなリスクと盲点を排除できる。

 山留め、構台、足場、クレーン、その他すべての仮設資材、重機をGDL(Geometric Description Language)オブジェクトとしてモデル化しておき、システム上で、それらの種別(タイプ)を選択し、サイズ、関連情報、配置、レイヤーなどを入力(変数)すると、パラメトリックにオブジェクトが変更される。それらを施工BIMモデルに配置、適合することで、建物本体のBIMモデルとテンポラリー(一時的)な仮設資材や重機は整合される=図。

 これらの技術革新や複数の海外連携会社を活用し、国内の1/10程度のコストで「現在までに同業他社を大きく凌駕する国内370現場、世界全体では740現場へのBIM導入が進み、月産約20現場のペースで増加し続けている」(鹿島建築管理本部次長兼BIM推進室長・生産性向上担当・矢島和美氏)。


 □3次元モデル承認からIoTまでを視野に入れた鹿島の「Global BIMの深化形」が描く近未来□


 新たに提供された資料には、鹿島の「Global BIMの深化形」の次なる近未来を窺い知れる記述があった。BIMモデルから2次元図面(施工図)を自動生成するアドオンシステムは進化し続け、旧来の施工図表現の革新まで視野に入れ始めている。行政対応などから致し方ない2次元図面の流通についても、内部的には3次元モデル承認まで試行している。自動施工計画プログラム、自動VR作成プログラムの開発を終え、外販計画を検討中だ。竣工BIMモデルの適用範囲としてIoT(Internet of Things)への対応も記されていた。

 これら鹿島の革新的な挑戦は、海外からも注目を集めており、アジア圏の建設会社としては初めて招聘を受けた矢島和美氏がbSI※のSAC(Strategic Advisory Council)のボードメンバーに加わった。

 ※bSI(buiidingSMART International)。国際標準仕様「IFC(Industry Foundation Classes)」検定などを行うIAI日本はbSI傘下のbuildingSMARTの日本支部。(http://www.buildingsmart.org/members/sac-members/)

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)