BIMの課題と可能性・112/樋口一希/BIMと連動する積算システム・3

2016年5月12日 トップニュース

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 建築数量積算・見積書作成システム「NCS/HELIOS(ヘリオス)」(日積サーベイ製)とBIMとのデジタル連携を「できる」から実務で「使える」にするための課題を検証する。


 □柱・床・梁などの実部材を用いて虚空間を構成する建築のデジタル化のユニークさに対応□


 大量生産=マス・プロダクションが前提の製造業=自動車産業。異なる車種間で融通できるようプラットフォーム(台車)の共通度を高め、製造ラインをフレキシブルにするなど、ビルド・ツー・オーダー+マス・カスタマイゼーション(Build-to-Order & Mass Customization)ともいえる手法も採用しているが、それとの比較でも、多くの場合、一品生産である建築物=「業としての建築」のデジタル化のユニークさは際立っている。

 製造業の3次元モデリングは「塊から対象物を切り出していくような」手法であるのに対して、建築(業)は、モジュール化された「部材・部品を組み合わせる=アセンブリする」手法だ。同時に建築では、柱、床、壁などの(実)部材・部品を用いて(虚)空間もモデリングしている。これら建築のユニークさが「NCS/HELIOS」とBIMとのデジタル連携の課題を規定している。


 □建物モデルには属性情報としては含まない通り芯や内法寸法を独自に取得して積算に援用□


 建築のデジタル化のユニークさを象徴する2次元図面の「通り芯」標記との関係から「NCS/HELIOS」がどのようにして建物モデルに基づき積算するのかを概説する。

 設計者は、BIMを用いて建物モデル=『形態情報:Modeling』とともに、それらに付属するさまざまな『属性情報:I=Information』を入力するが、2次元CADのように、設計時の最も初期的な基準となる「通り芯」は入力(意識)しない。BIMソフトは、『形態情報』『属性情報』に基づき、2次元図面生成時に標記として「通り芯」などの寸法を付加しているだけで、デジタル連携の対象である建物モデルには含まれていない。そのため、積算時の基準(値)となる「通り芯」は、「NCS/HELIOS」側が独自のノウハウで取得している。

 部屋面積の算定も、建築の積算実務のユニークさを表している。部屋とは、柱、床、壁などの(実)部材・部品に囲まれた(虚)空間で、面積算定には、いわゆる内法(寸法)が必要であり、ここでは「通り芯」は用いないからだ。


 □設計者が属性情報を持たない形だけの建物モデルを代用入力するなどの新たな課題へ対応□


 「NCS/HELIOS」は、主に実施設計段階での精(積)算を行うが、これまで検証してきた建築の積算実務のユニークさにみられるように、BIMとのデジタル連携を「できる」から「使える」にするためには、運用面での環境整備が必須だ。

 設計者が建物モデルに付与しない情報は積算対象にはならないから、どのタイミングで積算工程(積算技術者)と連携するのかの運用ルールを確立した上で、「NCS/HELIOS」側で追加、修正し、積算精度を上げる必要がある。設計者による誤入力への対応も同様だ。

 基本設計から実施設計へと、建物モデルの精度が高まる中で、積算工程(積算技術者)の側からすると、設計者は、絵は描くにしろ、積算に必要な情報を“全て”は描かない。設計者が見かけ上は建物モデル=『形態情報:Modeling』に見えるが、積算対象となる部材属性(名称)を持たない、のっぺらぼうな“形”を代用入力、表現する場合もある。

 建築の積算実務のユニークさを念頭に置き、「未・誤入力」「見かけ=代用入力」対策を講じつつ、既存の業務プロセスの中にBIM+「NCS/HELIOS」連携を導入する。特に設計者には、〔絵・形を描く〕+〔積算へと連携する建物情報を同時入力〕しているとの認識を持ってもらうのが「できる」から「使える」へとパラダイムシフトする要諦だ。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)