BIMの課題と可能性・162/樋口一希/日建設計の内部設計支援組織・3

2017年4月4日 トップニュース

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 設計のデジタル化にまつわる不可避的(Inevitable)な変化を、先鋭的に再定義(Reinvention)するべく試行錯誤を続けている日建設計の3DC(Digital Design Development Center)+DDL(Digital Design Lab)の「次へ向けた偏位」を探る。


 □設計情報がビッグデータ化されれば経験や勘を見える化+共有した上での設計行為が可能□


 2次元CAD黎明期に、ある建築家との対談で「建築家の線も、オペレータの線もプロッタ出力すれば同様」と述べて激怒された。CAD化進展のためには「(一本の線の深淵はさておき)出力した線は同様」と極論してでも、設計をデジタルとの関連で再定義する必要があると考えたからだ。

 デジタル以前の設計を概説すると、過去の最良の事例なども倣い、経験と勘というハードディスクからコピー&ペースト+再構成していたともいえる。設計情報がビッグデータ化されれば、経験や勘を見える化し、共有した上での設計行為が可能となるだろう。設計のデジタル化におけるオリジナルとは何かとの課題も包含しつつ、3DC+DDLは、不可避的な変化を体現するべく活動を続けている。


 □「形以前のアイデアから形を生成する」段階の初原的モデル作成に適した「Rhinoceros」□


 日建設計では、直近、「Rhinoceros」+「Grasshopper」の利用が増えている。Rhinoceros(アプリクラフト)は、複雑な曲面などを自由自在に設計できる製造業向け3次元CADソフトで、Grasshopper(ライセンスフリー)はプラグインとして機能する。

 建築分野で利用されている製造業向けソフトの代表格は「CATIA」(ダッソー・システムズ)だ。サグラダ・ファミリア聖堂建設プロジェクトに参加しているメルボルン大学建築学科教授のMark Burry氏は、「CATIAは建築系ソフトよりも設計の自由度が高い」(15年10月20日取材)と語った。

 逆説的だが、建築に特化したBIMソフトは、建物の形+属性情報=I(Information)がある程度、特定できた段階での運用に適しているが、設計最初期の「形以前のアイデアから形を生成する」段階ではMark Burry氏の指摘のように制約が多過ぎる(のかもしれない)。

 Grasshopperは、Rhinocerosのモデル作成などの挙動(設計)をプログラム化、記述し、数式やルールなどのアルゴリズムで自動化する。パラメータを変えるだけで、個々の構成部材から全体形状までを「作っては壊す」繰り返しが可能なため、特に設計最初期には最適なツールといえる。機能などをまとめたコンポーネントを配置してプログラミングするので、プログラマーでなくとも設計者でも使用できるのも利点だ。


 □Frank Gehry氏が語る設計のデジタル化に仮託し3DC+DDLの次への偏位を編集者目線で想像□


 Frank Gehry氏は『フランク・ゲーリー 建築の話をしよう』(Barbara Isenberg著:エクスナレッジ刊)で「CATIA」による設計のデジタル化のメリットについて語っている。

 ◆「設計段階でコスト管理の基本的な要素となる表面積や床面積、容量なんかを正確に分析できる」「構造も、機械系統も電気系統もわかるし、プロジェクト全体を統括して、建設会社に精度の高い情報を提供」

 建設会社がデジタル情報を援用して施工の射程を設計に逆算しようとする中で、設計事務所としては、基本設計の確度を上げ、経済価値(見える)化を根拠に協働する。そのためには共通の情報化プラットフォームの構築や基本設計のライセンス化も視野に入ってくるかもしれない。

 ◆「コンピュータのおかげで建築家はクライアントのパートナーになれるんだ」

 3DC+DDLには、支援し、協働する設計者の先にクライアント=市場がよく見えている。デジタルはやすやす組織の壁を超え、さまざまな業際を架橋するから、変化が不可避であるならば、市場と変化の胎動を共有し、先鋭的に進むべきだろう。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)