BIMの課題と可能性・163/樋口一希/日建設計の内部設計支援組織・4

2017年4月6日 トップニュース

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 製造業などにICTを注入し撹拌した際に生まれる革新を道標にして「業としての建築」に起こりうる不可避的(Inevitable)な変化について論考する。


 □30数年に及ぶ建築のデジタル化の偏位と次への革新が邂逅した瞬間に立ち会う□


 日建設計の原稿を脱稿した3月27日に開催されたインフォマティクスの創立35周年記念講演会。汎用設計製図システム、GDSのユーザーであった旧コンピュータ部の担当者と共に3DC(Digital Design Development Center)+DDL(Digital Design Lab)の若手技術者とも再会した。講演テーマ「Wisdom for the future」と相まって、30数年に及ぶ建築のデジタル化の偏位と次への革新が邂逅した瞬間となった。

 ニコラス・ネグロポンテ氏は、講演「misfits(はみ出し者)」でMITメディアラボを支えた異能者を紹介した。画面上の四角形を指で押す写真に目が止まる。スマホでは当然となった圧力センサーを構想する異能者がいた。「思考は実現する」が、そのためには、発した瞬間に問題の過半を解決するような、有効な射程を持つ優れた問が求められる。


 □コンピュータだからできるデザイン(設計)領域を追求するコンピュテーショナルデザイン□


 新国立競技場問題の際に、話題になったコンピュテーショナルデザイン(Computational Design)。ザハ・ハディッド(Zaha Hadid)氏のパースとともに、建築家とは「コンピュータを使って変な形を創る」との誤解も広がったのかもしれない。

 2次元CADやBIMは、人が行うデザイン(設計)作業をコンピュータによって肩代わり+支援(Computerize=コンピュータ化)するが、コンピュテーショナルデザインでは、人の指示に基づき、コンピュータがデザイン(設計)のプロセスそのものも担うためコンピュテーショナル(Computational=コンピュータによる)とされる。

 コンピュテーショナルデザインを可能とするのがGrasshopperなどのVPL(Visual Programming Language)ツールだ。デザイン(設計)のプロセスを構成する情報要素をプログラムでつなげて仮設を立てながら最適解を導き出す。設計者には、「情報要素の関係性をデザインする」とともに、コンピュータが導いた複数解の中から最適解を選択する能力が求められる。


 □Building Information ModelingからConnected Building+IoB(Internet of Building)+Digital Twinへと類推する□


 通信機能を持ち、利用者の利便性を高めるデバイスへと変身しつつあるConnected Carがあるならば、ネットワーク+各種センサー+CPUなどの集積体である建物の多くはすでにConnected Buildingといえる。建物を丸ごとデジタル化したBIMの3次元モデルとIoT(Internet of Things)は親和性も高いからIoB(Internet of Building)への更なる拡張もしやすいだろう。

 製造業革新の根幹をなすコンセプトがデジタルツイン(Digital Twin)だ。デジタルとリアルがIoTで通信することで、デジタル空間上のモデルと工場で製造されたリアルな製品を双子のように等価に扱う。

 一品生産で、現場もテンポラリーな建築への適用は困難だが、既存建物のBIMモデル化、現場とBIMモデル間の精度照合、デジタル・シミュレーションとリアルな建物や都市空間でのセンシングデータの比較・検討なども広くは応用事例といえる。

 建築のデジタル化の偏位を再考するためには『シティ・オブ・ビット-情報革命は都市・建築をどうかえるか』(ウィリアム・J.ミッチェル著)が良書だ。『スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。-未来を思索するためにデザインができること』(アンソニー・ダン/フィオーナ・レイビー著)も注目の一冊だ。

 ◆最新情報:3DC+DDLでは、建築を設計行為からではなく、「情報」という視点から再考した展示「BInfomation-BIM & Digital Designのその先-」を4月10日から5月26日まで日建設計東京ビル1Fギャラリーにて開催。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)